ブログ

若手研究者へ 記事の一覧です

附属と付属

「附属病院」と「付属病院」、どちらを書きますか?「附属」の方が重々しくてかっこいい感じもしますが、手書きの時は面倒なので「付属」と書いたりしてしまいますね。

どちらが正しいのだろうと思い、ネットを検索してみると、とても詳しく書かれている下記のホームページを見つけました。

https://fineday2019.com/2020/03/06/%E3%80%8C%E9%99%84%E5%B1%9E%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E4%BB%98%E5%B1%9E%E3%80%8D%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84%E3%81%A8%E4%BD%BF%E3%81%84%E5%88%86%E3%81%91/

どちらの場合もあるのですね。「付」も「附」も常用漢字ですが、「附」を使うのは「附則、附属、附帯、附置、寄附」の五つだけ、というのは覚えておきたいです。ただ、気をつけなくてはならないのは、固有名詞の場合には、どちらを使うのかが決まっているとのこと、京都府立医科大学のホームページを確認してみると、「京都府立医科大学附属病院」と書かれていました。面倒でも「附属」と書く必要がありますね。

フォローアップとサーベイランス

患者さんを治療した後は、定期的に経過観察をして、再発がないかなどを確認しますが、このような経過観察は「フォローアップ」、「サーベイランス」のどちらを使っていますでしょうか。「フォローアップ」は「経過観察」とほぼ同じ意味で、患者さんを経過観察する場合に用います。それに対して、「サーベイランス(surveillance)」は「基礎から学ぶ楽しい疫学第4版;中村好一先生著」によれば「サーベイランスとは、疾病の予防と管理を目的として、疾病の発生状況やその推移などを継続的に監視することにより、疾病対策の企画、実施、評価に必要なデータを系統的に収集、分析、解釈し、その結果を迅速かつ定期的に還元するものである。観察対象は個人ではなく集団」と書かれており、データ収集のためのシステムのことであり、個人の経過観察のときに用いる用語ではないのですね。ただ、これは疫学における定義であり、最近は、経過観察のことを「サーベイランス」と称していることもあるようです。

検診と健診

「けんしん」と聞いたら、「検診」と「健診」のどちらの漢字を思い出しますか?日本語は同音異義語が多いので混乱しますね。「検診」は英語では「screening」と記し、症状のない人から病気を見つけることです。代表は早期発見・早期治療の「癌検診」ですね。「健診」は「健康診断」の略で、英語では「health examination」「medical check-up」などで健康状態を確認する、健康であることを確認することです。人間ドックや一般健康診断などですね。
両方とも内視鏡検査などが使われる状況で用いる用語であり、間違える人が多いですね。

劣性遺伝と優性遺伝

常染色体の主な遺伝形式には、メンデルの遺伝形式をとる「優性遺伝」と、いとこ婚などでリスクが上昇する「劣性遺伝」の2つがあります。この「優性」と「劣性」の単語が、「優れている」「劣っている」とのイメージがあるとのことで、名前を変えようとする動きは、これまでもありました。

2017年に日本遺伝学会から「顕性遺伝」「潜性遺伝」と名称を変更する提案が出され、日本医学会でディスカッションされていましたが、この度、2022年1月に日本医学会より「顕性遺伝(優性遺伝)」「潜性遺伝(劣性遺伝)」と記すように通知がでました。

(参考)優性遺伝と劣性遺伝に代わる推奨用語について

http://www.nihon-eisei.org/wp-content/uploads/2022/01/1yougo-bunkakai.pdf

(参考)検討の経緯に関する参考資料

http://www.nihon-eisei.org/wp-content/uploads/2022/01/2yougo-bunkakai.pdf

これまで長く使っていた「優性遺伝」「劣性遺伝」が使われなくなることは、少し残念ではありますが、きっちりとした手順で決められたことですので、従おうと思っています。

英語からの翻訳の時に、dominantを「優性」、recessiveを「劣性」と直訳したのが問題発生のきっかけですね。私が昔、務めていた「大阪府立成人病センター(現:大阪国際がんセンター)」も、昔は英語表記が「adult disease center」との直訳的な表記だったのですが、実はこれは米国では「性感染症(sexually transmitted diseases; STD)センター」を指していることが分かり、途中で英語表記を変えました。

翻訳は難しいですね。

「薬」と「剤」

原稿を書くときに「降圧薬」と書くのか、「降圧剤」と書くのか、悩むことがありますね。「薬」と「剤」はとのように違うのでしょうか。日本臨床薬理学会のホームを見ますと「“クスリ、薬(ドラッグ)”とは“体に作用するもの”の全てを意味します。」と書かれています。体に良いものだけが「薬」ではなく、「麻薬」のように体に良くないものも含めて「薬」なのですね。ただ、違法で中毒性のあるものは「薬物」と称することが多いようです。

「剤」は、日本臨床薬理学会のホームページでは、最終的な医薬品製品の形態を「薬剤」もしくは「製剤」と称すると書かれていました。

ざっと調べた範囲では、「降圧薬」でも「降圧剤」のどちらでも良さそうです。出版物などでは、編集部の好みで統一しているようなので、編集部の指示に従えば良いですね。

ところで肛門から入れる薬、「坐薬」と「座薬」どちらが正しいと思いますか?ネットでみると「坐薬(座薬)」と書かれており、どちらでも良さそうです。文化庁のホームページを見ると「昭和31.7.5に国語審議会が報告した当用漢字表にない漢字を含んで構成されている漢語について、同音の別の漢字に書き換えるための指針の「同音の漢字による書きかえ」で「坐→座」と書き換えて使われています」とのことです。当用漢字は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の占領政策下の1946(昭和21)に内閣から告示された「当用漢字表」に掲載された漢字(1850字)なので、戦後に「坐薬」から「座薬」になったようですね。

一次予防(発癌予防)が可能な大腸癌検診

以前のブログで一次予防(発癌を予防する)と二次予防(癌死を予防する)について紹介しました。二次予防(癌死を予防する)の代表的対策は「早期発見・早期治療」をめざす「検診」です。検診は、症状のない人に検査をすることで癌を見つけるため、検診を開始すると癌の罹患率は上昇する傾向を認めるものの、検診により罹患率が低下することはありません。

しかし、大腸癌に関しては、日本でも米国でも、検診を始めてから、罹患率が低下する傾向が見られます。その理由として、大腸癌検診で大腸内視鏡検査をする機会が増えますが、大腸内視鏡検査では前癌病変の腺腫を見つけると内視鏡的に摘除するため、「将来、癌になる芽を摘んでいる」ことにより大腸癌の罹患が減少していると考えられます。

当然、大腸内視鏡検査をすることにより早期大腸癌も見つかりますので、大腸内視鏡検査は、一次予防も二次予防もできる素晴らしい検査ですね。

なお、日本では「大腸癌検診」と言えば「便潜血検査で陽性になったら大腸内視鏡」というイメージですが、米国では便潜血検査をせずに、いきなり大腸内視鏡検査をすることが多いです。米国では、現在、大腸癌は激減していて、人口あたりでは、日本の3分の1近くまで減っています!その理由として、米国では50歳になったら1回、無料で大腸内視鏡検査を受けることができる施策が行われているからと考えられています。

EBMと精密医療

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。

年末・年始、いろいろ忙しく、ブログのアップが遅くなり、すみませんでした。これからは、できるだけ毎週、アップしていきたいと思いますので、引き続きおつきあいください。

今回のテーマは、「根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)」と「精密医療(プレシジョン・メディシン:Precision Medicine)」です。

私が医師になった30年以上前には、これらの言葉も概念もありませんでした。医療現場は、先輩の医師達の経験で行われていた部分が多かったように思います。医師になって病院で勤務しはじめた時に、看護師さんから「患者さん、今日は入浴しても良いですか?」と聞かれ、「そのようなことは大学でも教えてもらっていなかったし、どうしたらよいのだろう」と悩み、指導係の先輩の先生に聞いて許可を出しました。

その後、米国でEBMが提唱され、199年代後半から日本でも知られるようになって来ました。最初、この単語を聞いたときには、「これまでの医療は根拠なしに行われてきていたのか!」と驚いたことを覚えています。EBMの根幹は臨床試験から得られた知見(エビデンス)であり、無作為割付臨床試験(randomized controlled trial:RCT、最近は「ランダム化比較試験」と称することも多くなってきました)で得られる知見がもっともレベルが高いとされています。たしかにRCTは未知の交絡因子もコントロールできる強力な方法ですが、RCT至上主義的な判断による弊害も出てきているように思います。きっちりとしたRCTを行おうとすると、かなり条件を絞り込む必要があり、かなり特殊な状況での結果(知見)になる危険性があります。RCTで得られた知見が、どの程度の集団にまで当てはめることができるのか(外挿性)については、慎重に判断する必要があります。また、例えば、新治療群では60%が有効で、対照群では30%のみ有効であった場合、有意な差であれば新治療が良いということになりますが、新治療でも40%の人は有効でなく、なかなか100%対0%にすることは難しいというジレンマもあります。

これらのことと遺伝子学的知見の集積により、「精密医療(プレシジョン・メディシン)」と言う考えが出てきたと思っています。「精密医療」とは、患者ごとの遺伝子や環境要因などの違いを考慮し、予防や治療法の確立を目指す医療で、その医療を「個別化医療」と称したり、予防を重視した場合は「先制医療」と称したりします。対象症例を絞り込み100%有効な医療を目指しているところは、割合の差を探すRCTの考え方と比較すると面白いですね。

EBMを行うための知見の創出のために、RCT的な考え方と、精密医療的な考え方を上手く取り入れて、試験を組み立てるのが良いと思います。

今年も大変お世話になりました

最近の2週間程度、年末でいろいろ忙しく、ブログのアップが途絶えてしまい、申し訳ございませんでした。今年からブログを書き始めましたが、これを書くために不確かな知識が整理できてとても勉強になりました。

ブログの内容は、大阪国際がんセンターの竹内洋司先生にかなり確認して頂きました。本当にありがとうございました。

来年は、自分自身がどうしてもまだ十分に理解できていないβエラーや正規分布の話などもご紹介することができればと思っています。

来年も、できるだけ毎週月曜にアップするようにしますので、多くのご意見を頂けましたら幸いです。このブログに直接、コメントを頂くのでも、私の下記のメールにお送り頂くのでも結構です。

cancer@gol.com

来年は新型コロナウイルスが終息することを、心より期待しています。

皆様、良い年をお迎えください。

学位授与を決めるのはだれ?

最近、医療系のベンチャー企業が上場申請する際の事前審査において、東京証券取引所や証券会社は事業計画の蓋然性を極めて重視するとの記事がありました。すなわち、上場しようとするベンチャー企業がいくつの製薬企業と提携しているか、その数でその企業の技術や製品を評価するのだそうです。本来ならば証券会社や東京証券取引所が自ら判断すべきイノベーションの価値の評価を製薬企業に丸投げしているのです。米国の新興市場NASDAQでは、その技術や製品の知財と将来性を自らが評価して上場を決めるそうですので、日本と米国でこの分野の発展に大きな開きが出て当然ですね。この話を聞いた時に、日本における学位の授与のことを思い出しました。

このブログの最初に学位の意味をご紹介しました。学位は研究を自由にすることの免許証であると記しましたが、その学位を授与するのは、指導を担当した教授ですね。指導を受けた研究者が自分自身で科学的に適切な考え方で研究ができると教授が判断した時に学位は授与されることになります。しかし、査読のある英文雑誌に筆頭著者として掲載された場合に、学位が授与されることもあるのではないでしょうか。それは、教授が決めるべき学位授与の可否を、海外の雑誌の編集部に委ねていることになるかもしれません。

適切に物事を評価することは、とても難しく大変なことですが、正しく評価することにより、その分野が大きく発展、進歩しますので、評価は手を抜いてはなりませんが、日本はそれが苦手なようですね。

大工さんと鍛冶屋

試験を行うためには、多くの専門家の人達の協力が必要です。疫学者、統計学者、基礎研究者、ソーシャルワーカー、カウンセラー、看護師、検査技師、CRC、医師、倫理審査委員会、予算を出すAMEDなど多くの専門家が試験の実施に関わります。

前回のブログできしましたように内科学の研究者は、検査法や治療法、予防法を開発することを担当しており、その目的のために試験を行うことが多いです。

内科研究者は家を建てる大工さんのような位置づけと私は思っています。大工さんは、いろいろな道具を使って家を建てますが、内科研究者はいろいろな科学的ツールを使って試験を実施して、エビデンスを作ります。大工さんは、かんなや鋸などを駆使しますが、内科研究者は統計学や疫学などを駆使して臨床試験をします。大工さんは、かんなや鋸の使い方は上手ですが、鍛冶屋のように自分で鋸を作ったりしません。それと同じように、内科研究者は統計学や疫学を上手に使えるように勉強する必要はありますが、統計学や疫学を究めなくても大丈夫です。自分と相性の合う統計学者や疫学者と上手に連携して、道具として適切に使えるようになることが大切ですね。