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若手研究者へ 記事の一覧です

子供は教えなくても紙を食べる?

人間も動物ですので、生き抜くための本能があります。いつもはあまり美味しいと感じないスポーツドリンクが、お酒を飲んで脱水になったときには、とても美味しく感じることがありますね。人間が生きていくための本能は、思っているよりすごいかもしれません。
昔、高齢のお医者さんから、「子供はお腹に虫がいたら、紙を食べて、虫を出そうとする」という話を聞いたことがあります。誰も教えていないのにすごいなぁ、と思ったことがあったのですが、最近、その話は本当なのかと思い、ネットで調べてみました。犬などでは寄生虫が感染すると泥などを食べる異嗜症(食べ物ではない糞や石、紙などを食べる病気)が出ることがあるようですね。人でも鉤虫症では、異食症を起こすとの記載がありました。
このような本能を上手に活用するのが、病気の治療には重要なのかもしれませんね。

お勧めの統計の本(その2)

以前のブログでお勧めの統計の本を紹介致しましたが、最近、とても良い本をみつけたので、その本を紹介します。自治医大の中村好一先生の「論文を正しく読み書くためのやさしい統計学 改訂第3版(診断と治療社)」です。表紙に「なんとかします!」と書かれている通り、統計をわかりやすく、かつ、高度な内容で解説してくれています。統計の本を購入するならば、ぜひとも検討してほしい1冊です。

以前に紹介しました奥田千恵子先生や新谷歩先生も本も読みやすいので、ぜひともチェックして下さいね。

臨床試験と臨床研究

お久しぶりです。しばらくブログをアップしておらず、失礼しました。これからは、できるだけ毎週月曜に新ネタをアップしていこうと思いますので、引き続きお付き合い下さい。

今回は「臨床試験」と「臨床研究」です。なんとなく使っているこれらの用語ですが、定義はご存じでしょうか。常識的には、「研究」の方が範囲は広く、「研究」の一つとして「試験」があるように思いますね。インターネットで検索すると「臨床研究のうち、薬剤や治療法、診断法、予防法などの安全性と有効性を評価する研究を臨床試験と言います。」と書かれていることが多く、「臨床研究」のなかで介入を行う研究などを「臨床試験」という感じですね。

しかし、「臨床研究法」での定義は違います!臨床研究法では、「臨床研究」については『第二条 この法律において「臨床研究」とは、医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究』と定義されています。すなわちこれ以外の研究、例えば観察研究は「臨床研究」と称することができないことになります。

臨床研究法における特定臨床研究のプロトコールなどを作る際には、気をつける必要がありますね。

ハザード比とリスク比の違い

リスク比やオッズ比と同じく、臨床試験でよく出てくる値に「ハザード比」があります。「ハザード比」と「リスク比」はどこが違うのでしょうか。

「リスク比」はある期間全体でのイベントの有無の情報を用いてイベント発生割合を比較しますが、「ハザード比」はいつイベントが起こったのかの時間(期間)の情報も用いて、「単位時間あたりのイベント発生率」を比較します。

生存時間などでカプランマイヤー曲線を描いたときによく用いるログランク検定ではハザード比は出ません。ハザード比を出すためにはCox比例ハザードモデル(Cox回帰)で計算する必要があります。

「30日以内」は、過去?未来?

プロトコールなどで「登録日の30日以内に心電図を測定すること」と書かれていることがあります。その場合、例えば、登録日が7月1日であれば「30日以内」は「6月1日~7月31日」なのか「6月1日~7月1日」なのか、迷うことがあります。登録の条件に「心電図で異常がないこと」と書かれていれば「6月1日~7月1日」のことなのだと思われますが、条件になっていなければ、「6月1日~7月31日」と思うこともできますね。

そのような混乱を避けるためには「登録日より過去30日以内に」と記載する必要があります。なお、「登録日より30日以前に」と記すと「5月31日より過去に」という意味に取られますので気をつけましょう。

30%減少とは?

ニュースなどで、「患者数30%減に」「患者数30%に減」などの記載を見ることがあります。この場合、最初の書き方であれば100人いた患者さんが30%減って70人になった、後の書き方であれば100人いた患者さんが30%の30人になった、という意味になりますね。紛らわしいです。記事によっては、わざと勘違いさせようとしていると思ってしまうような書き方をしているものもありますね。「患者数が減って30%になった」「患者数が30%減って70%になった」というように誤解されないよう丁寧に書いてほしいですね。

 

オッズ比

リスク比に似た指標にオッズ比(odds ratio:OR)があります。これも日本疫学会が出している「疫学用語の基礎知識」では下記のように書かれています。

「オッズとは、「見込み」のことで、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1 − p)に対する比を意味する。オッズ比とは二つのオッズの比のことであり、コホート研究での累積罹患率(罹患率)のオッズ比と、症例対照研究での曝露率のオッズ比がある。前者は曝露群と非曝露群それぞれの罹患/非罹患オッズの比であり、後者は罹患率と非罹患率それぞれの曝露/非曝露オッズの比である。」「症例対照研究の場合、相対危険と寄与危険を直接計算することはできないが、①患者群・対象群が母集団を代表していること、②疾病の発症率が低いこと、などが成り立つとき、オッズ比により相対危険の近似式として用いる。」多変量解析のロジスティック回帰分析では、結果はリスク比ではなく、オッズ比で出ることに注意が必要ですね。

オッズ比を示すときには「○○倍になった」と言ってはいけないことも注意しましょう。

オッズ比とリスク比については、下記のホームページ内の新谷先生の解説動画がとてもわかりやすいので参考にして下さい。

https://haru-reha.com/risk-odds/

RRは何の略?

論文を読むと結果を示す表にRRと書かれていることがありますね。これは何を指しているのでしょうか。結果を示すところに書かれているRRには下記の2種類があります。

・相対危険度(relative risk:RR)

・リスク比(risk ratio: RR)

日本疫学会が出している「疫学用語の基礎知識」では下記のように書かれています。

「危険因子に曝露した群の罹患リスク(危険)の、曝露していない群の罹患リスクに対する比で示される。リスク比ともいう。すなわち、「危険因子に曝露した場合、それに曝露しなかった場合に比べて何倍疾病に罹りやすくなるか(疾病罹患と危険因子曝露との関連の強さ)」を示す。疫学の要因分析で重要な指標である。」すなわち、相対危険度とリスク比は同じですね。

「elderly」は使ってはいけない?

ある論文を投稿するためにネイティブチェックを受けたところ、「elderly」がすべて「older」に修正されました。そこで、共著者先生がネットで検索して下記のとても興味深いホームページを見つけてくれました。

https://www.hcs.tsukuba.ac.jp/~koureicare/documents/vol10_no2_2.pdf

これをみますと、高齢者を英語で表記する際には elderly や old ではなく、older という表現の使用が適切と書かれていました。やはり英語を母国語にしていない私達には絶対にわからないことですね。

Zelenの方法

皆さんは、「Zelenの方法」をご存じでしょうか。倫理的問題が大きいため、原則として実施してはいけない研究方法ですが、非常に高名な統計学者のZelen先生が、トップジャーナルであるNew Engl J Medで昔、提案した臨床試験の方法です。

一般的な無作為割付試験では、最初に試験内容を説明して同意を得てから無作為に2群に割り付けます。「先呼びかけ・後割付」ですね。

それに対して、Zelenの方法では適格症例に対して、同意を得る前に割付をして新治療になった人のみに参加を呼びかけ、同意を得て新治療を行います。「先割付・後呼びかけ」です。

Zelenの方法

この試験では、新治療を行った患者さんと標準治療群に入った標準治療の集団で比較を行います。臨床の現場の手間としては、単群介入試験を行う場合とほとんど変わらず、簡便に無作為割付試験ができる方法として提案されましたが、現在は、この方法は倫理的問題が大きいため、原則、実施することはできません。

この方法のどこに倫理的問題があるのでしょうか。「標準治療群」に割り付けられた人は、自分が知らないうちに試験の対象者にされて、標準治療の経過を観察されています。自分の情報を自分でコントロールできないことが問題なのです。

よく似た研究方法にヒストリカル・コントロールを比較対照にする研究があります。この方法でも、ヒストリカル・コントロールになる集団からの情報は、研究開始時点までの情報しか使うことはできません。研究開始後の情報も収集したいのであれば、その集団からも同意を得る必要があることに注意しましょう。