若手研究者へ 記事の一覧です
RCTの論文の両群の背景を比較したtable1にp値をつけない理由
無作為割付臨床試験(RCT)において、table1は、割付された2群の参加者背景を並べて示すのが一般的です。この2群の背景を示すデータにp値をつけている論文が多いですが、そこにp値はつけてはいけないとの話を聞かれた先生もおられると思います。
その理由を坪野吉孝先生がされているセミナーでわかりやすく説明されていましたので、ご紹介致します。月に1回程度、土曜の昼に坪野先生のウエブ疫学セミナーが開催されています。このたび、オンデマンドですべてのセミナーを聴講することが可能となりました。
下記にその案内をコピペします。
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第1回疫学セミナー以来の、過去のセミナーの動画をオンデマンドでご視聴して頂けるよう設定いたしましたので、ご案内申し上げます。連休中のご視聴など、ご検討頂ければ幸いです。
・以下のリンクより、各回のタイトル・概要をご覧頂き、お申込みいただくこともできます。
https://epidemia.jp/archives
坪野吉孝(セミナー講師・東北大学大学院客員教授)
過去のセミナーの概要
第1回~第3回
『疫学―新型コロナ論文で学ぶ基礎と応用』(坪野吉孝、勁草書房、2021)の第II部応用編の、新型コロナに関する論文と、論文が採用した疫学的方法論の革新性に関する解説
第4回~第8回
最新のNEJM論文と、論文に関連する疫学的な概念や方法に関する解説
第9回以降
『疫学―新型コロナ論文で学ぶ基礎と応用』(坪野吉孝、勁草書房、2021)などを使い、教科書の流れに沿って基本事項を系統的に説明。その回に学んだ概念や方法を使って最新のNEJM論文をどのように批判的に読み解けるかを解説。
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第9回から視聴されると坪野先生の教科書の記述の順番に沿って、疫学の基礎を系統的に学ぶことが可能とのことです。特に「12 P値・統計的有意差・95%信頼区間」に、RCT論文のtable1でp値をつけない理由がわかりやすく解説されています。
各セミナーを視聴するためには、2,000円の参加費がかかりますが、その価値は十分にあると思います。ぜひとも視聴してみてください。
倫理審査に関するお勧めの本
倫理審査委員会に申請する時、倫理審査が必要なのか?オプトアウトで大丈夫なのか?これは介入試験なのか、観察研究なのか?など悩むことが多くありますね。それらの疑問について、丁寧に解説してくれる本がありましたので、ご紹介致します。
「相談事例から考える研究倫理コンサルテーション(監修;松井健志)医歯薬出版」5,720円とちょっと高いですが、とても役に立つ本です。臨床研究を立案するときに多くの先生が悩む点について、事例をあげて丁寧にその内容を解説してくれています。
医局に1冊あると便利な本と思います。
βカロテンで肺がんが増える!
かなり前ですが、βカロテンの摂取で肺癌が増える研究が2つ報告されています。
一つはATBC Study(Alpha-Tocopherol Beta- Carotene Cancer Prevention Study)で1994年に報告されました。29,133人のフィンランド男性喫煙者に参加してもらいβ-カロテン(20㎎)とビタミンE(50㎎)毎日投与を評価する二重盲検試験です。5-8年間の追跡調査でβ‐カロテン投与群の肺がん罹患率が18%、虚血性心疾患の死亡率が11%、脳血管疾患死亡率が20%上昇しました。
もう一つはCARET(Beta-Carotene and Retinol Efficasy Trial)で1996年に報告されました。18,314人の米国喫煙者・アスベスト曝露者に参加してもらいβ-カロテン(30㎎)とレチノール(25,000IU)の毎日投与を評価する二重盲検試験です。平均4年間の追跡調査で,投与群の肺がん罹患率が28%上昇したため途中で中止しています。
同時期に別の2つの下記の研究も報告されています。
Physicians’ Health Study(PHS)は、22,071人の米国男性医師に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)とアスピリン(325㎎)の隔日投与を評価する二重盲検試験で、5年間の追跡調査で,アスピリン投与群の虚血性心疾患の罹患率が51%低下、12年間の追跡調査でβ-カロテンにがんの予防効果なしでした。
Womens’ Health Study(WHS)は、39,876人の米国女性保健職に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)、ビタミンE(600IU)、アスピリン(100㎎)の隔日投与 を評価する二重盲検試験でPhysicians’ Health Study とCARETの結果を受けて、β‐カロテンの投与を2年間で中止しました。その後2年間の追跡調査で、がんと循環器疾患の予防効果なしでした。
βカロテンにより肺癌が増えたATBC Study・CARETと、肺癌が増えなかったPHS・WHSの違いは何でしょうか。ATBC Study・CARETは、喫煙者で、PHS・WHSはほとんどが非喫煙者だったのです。その頃、研究者たちは、肺癌の高危険度群である喫煙者に肺癌を予防すると考えられていたβカロテンで肺癌を予防しようとしたのですが、喫煙者がβカロテンを服用すると逆に肺癌が増えてしまったのですね。
私たちは、大腸癌予防のためにアスピリンを投与する研究をしていますが、その試験でも、喫煙者がアスピリンを服用すると逆に大腸腫瘍を促進すること、そして、非喫煙者ではアスピリンは顕著に大腸腫瘍を抑制することを見いだしました。
やはり、体に悪いたばこは禁煙するのが大原則ですね。糖尿病の患者さんはしっかり食事制限をして必要に応じてインスリンを使用する、高脂血症の患者さんはしっかり運動・適正な食事をして必要に応じてスタチンを使用する、というように、最初から薬に頼らず、まずは自らの生活を正すことが大切なのは、癌予防でも同じようです。体に悪いことをしていても、薬を飲んでおけば大丈夫、というようには神様はさせてくれないようです。
UCはCDになることがある。しかし、CDはUCにならない
潰瘍性大腸炎(UC)と思って診断していたらクローン病(CD)だったことを経験したことはありませんでしょうか。UCの診断基準は厚労省難病の下記のホームページに「主として粘膜を侵し、びらんや潰瘍を形成する原因不明の大腸のびまん性非特異性炎症」と書かれています。
https://www.nanbyou.or.jp/entry/218
大腸の炎症があり、感染性腸炎やクローン病、放射線照射性大腸炎、薬剤性大腸炎、リンパ濾胞増殖症、虚血性大腸炎、腸型ベーチェットなどが除外されれば、すべて潰瘍性大腸炎になります。実はクローン病であったとしても、診断時にクローン病の特徴的な所見がなければ潰瘍性大腸炎と診断されてしまう可能性があります。その場合、その後の加療中に典型的なクローン病の所見が出てきて、クローン病に診断が変わります。また、この診断基準より、特徴的な所見からクローン病と診断された患者さんが、潰瘍性大腸炎に診断が変わることはありえないですね。
私も、診断時には潰瘍性大腸炎と診断されたものの、その後、クローン病に診断が変わった患者さんを数人経験しています。潰瘍性大腸炎と診断していても、なにか違うような印象(炎症部位が非典型的であったり、リンパ濾胞の炎症が目立ったりするなど)がある患者さんは、潰瘍性大腸炎ではないかもしれない、と常に思いながら、診療にあたっています。
すなわち「潰瘍性大腸炎」には、いろいろな異なった原因で発症した腸炎をまとめた症候群のような病名と思います。私は、現在、潰瘍性大腸炎と診断されている患者さんには、少なくとも5種類以上の原因があると考えています。幼少時期に発症する潰瘍性大腸炎や、最近、増えてきている50歳を過ぎてから発症する潰瘍性大腸炎は、同じ病名がついていますが、全く別の病気なのでしょうね。
潰瘍性大腸炎は、いろいろな原因の病気の集合体のため、治験などでも成績がバラバラになることが多いように思います。論文報告などでも、地域や人種などでおそらく原因の分布が大きく異なるため、内容にばらつきが大きいですね。潰瘍性大腸炎の原因を解明し、原因から病気を再分類しなくては、良い治療法の開発は困難と思います。早い本疾患の原因解明が待たれます。
子供は教えなくても紙を食べる?
人間も動物ですので、生き抜くための本能があります。いつもはあまり美味しいと感じないスポーツドリンクが、お酒を飲んで脱水になったときには、とても美味しく感じることがありますね。人間が生きていくための本能は、思っているよりすごいかもしれません。
昔、高齢のお医者さんから、「子供はお腹に虫がいたら、紙を食べて、虫を出そうとする」という話を聞いたことがあります。誰も教えていないのにすごいなぁ、と思ったことがあったのですが、最近、その話は本当なのかと思い、ネットで調べてみました。犬などでは寄生虫が感染すると泥などを食べる異嗜症(食べ物ではない糞や石、紙などを食べる病気)が出ることがあるようですね。人でも鉤虫症では、異食症を起こすとの記載がありました。
このような本能を上手に活用するのが、病気の治療には重要なのかもしれませんね。
お勧めの統計の本(その2)
以前のブログでお勧めの統計の本を紹介致しましたが、最近、とても良い本をみつけたので、その本を紹介します。自治医大の中村好一先生の「論文を正しく読み書くためのやさしい統計学 改訂第3版(診断と治療社)」です。表紙に「なんとかします!」と書かれている通り、統計をわかりやすく、かつ、高度な内容で解説してくれています。統計の本を購入するならば、ぜひとも検討してほしい1冊です。
以前に紹介しました奥田千恵子先生や新谷歩先生も本も読みやすいので、ぜひともチェックして下さいね。
臨床試験と臨床研究
お久しぶりです。しばらくブログをアップしておらず、失礼しました。これからは、できるだけ毎週月曜に新ネタをアップしていこうと思いますので、引き続きお付き合い下さい。
今回は「臨床試験」と「臨床研究」です。なんとなく使っているこれらの用語ですが、定義はご存じでしょうか。常識的には、「研究」の方が範囲は広く、「研究」の一つとして「試験」があるように思いますね。インターネットで検索すると「臨床研究のうち、薬剤や治療法、診断法、予防法などの安全性と有効性を評価する研究を臨床試験と言います。」と書かれていることが多く、「臨床研究」のなかで介入を行う研究などを「臨床試験」という感じですね。
しかし、「臨床研究法」での定義は違います!臨床研究法では、「臨床研究」については『第二条 この法律において「臨床研究」とは、医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究』と定義されています。すなわちこれ以外の研究、例えば観察研究は「臨床研究」と称することができないことになります。
臨床研究法における特定臨床研究のプロトコールなどを作る際には、気をつける必要がありますね。
ハザード比とリスク比の違い
リスク比やオッズ比と同じく、臨床試験でよく出てくる値に「ハザード比」があります。「ハザード比」と「リスク比」はどこが違うのでしょうか。
「リスク比」はある期間全体でのイベントの有無の情報を用いてイベント発生割合を比較しますが、「ハザード比」はいつイベントが起こったのかの時間(期間)の情報も用いて、「単位時間あたりのイベント発生率」を比較します。
生存時間などでカプランマイヤー曲線を描いたときによく用いるログランク検定ではハザード比は出ません。ハザード比を出すためにはCox比例ハザードモデル(Cox回帰)で計算する必要があります。
「30日以内」は、過去?未来?
プロトコールなどで「登録日の30日以内に心電図を測定すること」と書かれていることがあります。その場合、例えば、登録日が7月1日であれば「30日以内」は「6月1日~7月31日」なのか「6月1日~7月1日」なのか、迷うことがあります。登録の条件に「心電図で異常がないこと」と書かれていれば「6月1日~7月1日」のことなのだと思われますが、条件になっていなければ、「6月1日~7月31日」と思うこともできますね。
そのような混乱を避けるためには「登録日より過去30日以内に」と記載する必要があります。なお、「登録日より30日以前に」と記すと「5月31日より過去に」という意味に取られますので気をつけましょう。
30%減少とは?
ニュースなどで、「患者数30%減に」「患者数30%に減」などの記載を見ることがあります。この場合、最初の書き方であれば100人いた患者さんが30%減って70人になった、後の書き方であれば100人いた患者さんが30%の30人になった、という意味になりますね。紛らわしいです。記事によっては、わざと勘違いさせようとしていると思ってしまうような書き方をしているものもありますね。「患者数が減って30%になった」「患者数が30%減って70%になった」というように誤解されないよう丁寧に書いてほしいですね。