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2023年4月 の記事一覧です

オプトアウトとオプトイン

「オプトイン」とは、「意思の伴う参加(同意)」であり、通常の臨床試験は、原則、「オプトイン」で実施されます。それに対して「オプトアウト」は、研究の実施についての情報を通知又は公開して、可能な限り拒否の機会を保障して行う研究を指し、被験者から同意は得ません。

生命・医学系指針では、可能な限り「オプトイン」で研究をすることが望ましいとされています。すなわち、過去のカルテデータなどの用いた研究などでも、もしも、現在も通院していて同意が取得できる状況であれば、同意を取ってから研究をしなさい、ということです。ただ、実際には、現在通院している患者さん全員の同意を取ってから研究をすることは極めて困難ですよね。

ただ、2022年5月26日に出されたガイドラインのQ&A(2-15)には、「同意を取得するための時間的余裕や費用等に照らし、本人の同意を得ることにより当該研究の遂行に支障を及ぼすおそれがあるときには、同号の規定によりこれを行うことが許容される」と書かれています。ほとんどの研究者は、時間的余裕や費用はないですから“時間的余裕や費用がなかったらオプトアウトで研究しても良い”との判断は、画期的ですね。

それでも倫理審査委員会によっては、プロトコール上、同意取得可能な被験者に対してはオプトインで同意を取得する旨の記載が必要と判断されることがあり、その場合には、(ほとんど使われない?)同意説明文書と同意書の書類を作成する必要があります。

βカロテンで肺がんが増える!

かなり前ですが、βカロテンの摂取で肺癌が増える研究が2つ報告されています。

一つはATBC Study(Alpha-Tocopherol Beta- Carotene Cancer Prevention Study)で1994年に報告されました。29,133人のフィンランド男性喫煙者に参加してもらいβ-カロテン(20㎎)とビタミンE(50㎎)毎日投与を評価する二重盲検試験です。5-8年間の追跡調査でβ‐カロテン投与群の肺がん罹患率が18%、虚血性心疾患の死亡率が11%、脳血管疾患死亡率が20%上昇しました。

もう一つはCARET(Beta-Carotene and  Retinol Efficasy Trial)で1996年に報告されました。18,314人の米国喫煙者・アスベスト曝露者に参加してもらいβ-カロテン(30㎎)とレチノール(25,000IU)の毎日投与を評価する二重盲検試験です。平均4年間の追跡調査で,投与群の肺がん罹患率が28%上昇したため途中で中止しています。

同時期に別の2つの下記の研究も報告されています。

Physicians’ Health Study(PHS)は、22,071人の米国男性医師に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)とアスピリン(325㎎)の隔日投与を評価する二重盲検試験で、5年間の追跡調査で,アスピリン投与群の虚血性心疾患の罹患率が51%低下、12年間の追跡調査でβ-カロテンにがんの予防効果なしでした。

Womens’ Health Study(WHS)は、39,876人の米国女性保健職に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)、ビタミンE(600IU)、アスピリン(100㎎)の隔日投与    を評価する二重盲検試験でPhysicians’ Health Study とCARETの結果を受けて、β‐カロテンの投与を2年間で中止しました。その後2年間の追跡調査で、がんと循環器疾患の予防効果なしでした。

βカロテンにより肺癌が増えたATBC Study・CARETと、肺癌が増えなかったPHS・WHSの違いは何でしょうか。ATBC Study・CARETは、喫煙者で、PHS・WHSはほとんどが非喫煙者だったのです。その頃、研究者たちは、肺癌の高危険度群である喫煙者に肺癌を予防すると考えられていたβカロテンで肺癌を予防しようとしたのですが、喫煙者がβカロテンを服用すると逆に肺癌が増えてしまったのですね。

私たちは、大腸癌予防のためにアスピリンを投与する研究をしていますが、その試験でも、喫煙者がアスピリンを服用すると逆に大腸腫瘍を促進すること、そして、非喫煙者ではアスピリンは顕著に大腸腫瘍を抑制することを見いだしました。

やはり、体に悪いたばこは禁煙するのが大原則ですね。糖尿病の患者さんはしっかり食事制限をして必要に応じてインスリンを使用する、高脂血症の患者さんはしっかり運動・適正な食事をして必要に応じてスタチンを使用する、というように、最初から薬に頼らず、まずは自らの生活を正すことが大切なのは、癌予防でも同じようです。体に悪いことをしていても、薬を飲んでおけば大丈夫、というようには神様はさせてくれないようです。

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