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若手研究者へ 記事の一覧です

内科学とは

内科学とは、どのような学問でしょうか。私は、内科学とは主に下記の3つを研究する学問と思っています。

1) 病気の原因を探り、病気を定義し分類する。

2) 検査法、診断法を開発する。

3) 治療法、予防法を開発する。

私がメインで行っている研究は、大腸癌の予防法の開発ですが、これも内科学の一つですね。

新しい病気を見つけ、その原因を探求し、疾患を分類することは、とても重要ですが、変な分類を作ってしまうと、その後の研究や診療に混乱を来すため、分類を作る時は、慎重に作る必要があります。その分類が、機序による分類なのか、治療効果による分類なのか、診断に役立つ分類なのか、などをよく考えてから分類法を提唱することが重要ですね。

一次予防と二次予防の効果の違い

毎週、月曜にブログをアップする予定にしていたのですが、先週は雑用におわれアップすることができず、申し訳ございませんでした。

以前のブログで「癌の一次予防」や「癌の二次予防」を紹介しました。「癌の一次予防」は禁煙などにより「発癌を予防する」、「癌の二次予防」は検診などにより早期発見・早期治療をして「癌死を予防する」ことですね。例えば、胃癌の死亡者数が減ってきたときに、この2つの予防のどちらによる効果だったのかを知る方法があることをご存じでしょうか。

胃癌の場合、二次予防は胃癌検診、一次予防はピロリ菌の感染減少が代表的ですね。もしも、二次予防の検診が有効であった場合には、胃癌の死亡率は減少しますが、発癌は予防しないので、罹患率は変化しません(本当は、過剰診療があり、罹患率は増えることが一般的です)。それに対して、一次予防が有効な場合には、まず、罹患率が減少し、それを追いかけるように死亡率が減少します。


すなわち、罹患率と死亡率の変化を比べることにより、一次予防(発癌予防)と二次予防(癌死予防)の効果の違いを知ることができます。国立がん研究センターのホームページで、臓器別の年別罹患率と死亡率は簡単にダウンロードできますので、現在、死亡率が減少している肺癌や肝癌、胃癌などが、どのような理由で減少しているのかを、グラフを書いて考えてみると面白いですね。胃癌の減少はどちらの理由だったのか、ぜひとも調べてみてください。

大腸内視鏡実践研究会

2010年頃から、米国よりNPSなど大腸内視鏡検査による強力な大腸癌罹患、死亡抑制効果を示す成果が数多く発表されるようになってきました。その知見をもとに米国では50歳時に、国民全員が無償で大腸内視鏡検査を受けることができる施策が実施されて大腸癌の罹患率、死亡率が激減しました。それに対して本邦では、2005年3月に大腸癌検診のガイドラインができてから現在まで全く改定されていません。16年間で科学や医学は大きく進歩しましたが、その期間、全くガイドラインが改定されなかったことは、大変な驚きですね。やっと、最近になり大腸癌検診のガイドラインを改定するためのための作業が始まったようです。その新しいガイドラインでは、大腸内視鏡検査が大腸癌対策の重要な検査として位置づけられる可能性が高いと思われます。しかし、仮に大腸内視鏡検査が大腸癌検診で重要な役割を担うことになったとしても、現在の本邦では国民全員が50歳の時点で大腸内視鏡検査を実施できるような体制は整っていません。

そこで、国民の多くが大腸内視鏡検査を受けることができるように、市中病院・クリニックにおける大腸内視鏡検査の量と質の向上および均てん化のために「大腸内視鏡実践研究会」を創設しました。

本研究会は、臨床の最前線のクリニックで多数の大腸内視鏡検査を実施している先生方に幹事になって頂き、これから市中病院やクリニックで積極的に大腸内視鏡検査を実施していこうと考えている先生方を支援するために、ホームページの開設と年1回の研究会の開催などをすることに致しました。さらには、大腸内視鏡を主な業務としている内視鏡開業医の先生方を対象とした実態把握研究などのプロジェクトも実施しています。

大腸内視鏡検査で開業をしようと考えておられる先生方にお役にたついろいろな情報も提供しています。幹事の先生方のクリニックを紹介する動画もアップしています。今年開催されました第1回研究会のほとんどの内容はホームページで見ることができます。

本研究会に興味をお持ちの先生におかれましては、ぜひとも下記のホームページから会員登録を行って頂き、日々の診療における大腸内視鏡検査の参考にしてください。

http://daichounaishikyoujissen.kenkyuukai.jp/special/?id=34232

預け金

国から支給される研究費の多くは3月までに予算を使い、余った分は国に返金します。文科省の研究費の一部では、3月の時点で使わなかった予算は次年度へ持ち越しが可能なこともありますが、これはかなり例外的な取り扱いになります。

年度末に余った研究費を国に返金したくないため、業者にお金を預けて次年度以降にそのお金を使うことを「預け金」と言い、犯罪です。これをする場合、国の予算はその年度で使うことが必要ですので、見かけ上は予算を使った形にする必要があり、架空の発注をして予算が執行されたようにしてお金を業者に渡します。架空の領収書が出されている時点で、すでに犯罪ですね。業者はその預かったお金の記録を裏台帳に記して、次年度に研究者が希望する物品をその裏台帳から支出して渡すのが「預け金処理」です。

これをするためには、架空の発注や領収書、請求書などが必要になりますので、しつこいようですが、それをした時点で犯罪です。研究に必要なものを次年度以降に執行しても、この行為自体が犯罪ですので、絶対にしてはいけません。

ただ、年度をまたぐ研究の場合、判断が難しい場合もあります。年度単位での予算執行を極端に考えると、その年度に購入した試薬などは年度をまたがずに3月末で廃棄しなくてはならない、動物実験で飼っていたラット・マウスも年度末にすべて屠殺しなくてはならない、などという馬鹿げた話にもなりかねません。

現在、多くの介入試験では臨床研究保険への加入が義務づけられていますが、複数年におよぶ長期間の試験であっても、保険会社の見積もりは試験全体で行われ、保険の掛け金は試験開始時に支払うように指示されることが多いです。ただ、複数年度の保険の掛け金を、その年度の予算で支払うことについては、当局から問題点を指摘されて、保険会社と交渉が必要になることもあります。

家を建てる時などは、完成して引き渡される時だけでなく、最初の時には手付け金、途中でも数回に分けて建築費を支払うのが一般的です。長期間にわたる大きな研究プロジェクトなどでは、単年度ではなくプロジェクト全体に予算がつくようにする必要があるように思います。毎年の予算執行の管理は必要と思いますが、研究者が研究に集中できるように、できるだけ使いやすい方法を考えてほしいですね。

名義貸し

研究をする時には、人手がかかりますね。大きな試験を始めるときには、研究者自身が頑張るだけでなく、同じ教室の先生方、医局の秘書さんや事務スタップにもいろいろな作業をお願いすることが多いと思いますが、それだけではとてもできないことも多く、そのプロジェクトのために非常勤職員(バイト)を雇ったり、派遣会社に事務員の派遣を依頼したりすることもあると思います。これらは正規の予算執行ですが、ここで不正がおこることがあります。知人の仕事をしていない奥さんなどに、形だけバイトをしていることにして、給与を渡して、その一部を返してもらう(キックバック)犯罪があります。

研究費の執行のためには、バイトとして雇用した人の履歴書や出勤簿などをつけることも必要で、かなり手のこんだ犯罪であり、それだけに証拠も残りやすく、もしも発覚したときには言い訳できない犯罪ですので、ばれたら研究者人生が終わりますよ!絶対にしてはダメです。

研究費を用いた犯罪について

毎月のように研究者の研究費に関わる犯罪の報道があります。とても残念なことと思います。ただ、ニュースで放送される内容を聞くだけでは、一体どのような方法で、悪いことが行われたのか、イメージできないことも多いのではないかと思います。

研究費の不正使用方法を知っておくことは、自分や仲間の先生方が、知らずに行ってしまうことを防ぐことにもなりますので、このブログでご紹介したいと思います。ただ、これを読んで、真似をして不正をしたらダメですよ。必ず捕まります!

研究費の不正使用には、代表的なものとして下記の3つがあります。

1)空出張

2)名義貸し

3)預け金処理

これらを国の予算(私達の税金ですね)から支払われた研究費を使って行うことは、明らかな犯罪であり、場合によっては脱税の罪にも問われます。絶対にしないようにしてください。

1)空出張

兵庫県のとある議員が、毎週のように城崎温泉に行ったことにして、その交通費をネコババしたことが報道されたように、すぐに誰でも思いつく犯罪ですね。この人は台風で電車が走っていない日まで計上してばれましたね。

キップを買って、すぐに払い戻しをしたり、金券ショップで売ったりして現金を手に入れて、実際には出張に行かないことは、誰が考えても犯罪ですね。過去には、そのようなことをする人が多かったためか、実際に乗車に使ったキップを改札口で「記念乗車・使用済」のハンコを押してもらい、現物を提出しなくてはならない時期もありました。そのときには、背広を着た国の費用で出張しているのであろう人達が、改札で並ぶような風景もありました(さすがに、現在は現物のキップの提出は免除されるようになりましたが)。

国の予算でなく、製薬メーカーからの講演会出席などの交通費支給であれば、国の予算を用いた詐欺にはならないですが、税金のかからない収入になりますので、脱税になります。製薬メーカーとしても、せっかく交通費を出しているのに行ってくれないのは、不義理な奴ですね。

このような明らかな空出張でなくても、1回の出張で、複数の用事をして、それぞれから交通費をもらうことも不正になります。宿泊などもするとかなりの金額になりますし、これらの支出記録は長期間保管されますので、何年も経ってから調べられてばれることもあります。こんなことで、研究者生命を絶たれてしまうことはとても残念ですので、絶対にしないようにしましょう。

なお、キップを買うときにポイントを獲得した場合や、飛行機などのマイレージは、支出される官庁(厚労省、文科省、AMEDなど)や所属する機関(大学、病院など)で取得の可否が決められていますので、獲得する時には、それらの事務と相談しましょう。飛行機のマイレージは、取得すると取り消すのがかなり面倒なので、気をつけましょう。

2)名義貸し、3)預け金処理は、次のブログでご紹介します。

一次予防と二次予防

皆さんは、「癌の一次予防」や「癌の二次予防」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。「癌の一次予防」は「発癌を予防する」、「癌の二次予防」は「癌死を予防する」ことを指します。

癌の二次予防の代表は「早期発見・早期治療」の検診ですね。ただ、より良い手術や化学療法を開発することも癌死を防ぐためなので、二次予防に含まれると私は考えています。

それに対して、「癌の一次予防」は、禁煙対策やピロリ菌や肝炎ウイルスの対策、そして薬で発癌を予防する「化学予防」などがあります。それぞれの予防法の開発は大切ですが、癌にならない研究が特に重要と思っています。病気にはならないことが一番ですよね。

ただ、検診では、「早く癌が見つかって良かった」と患者さんには感謝されますが、頑張って禁煙指導しても、「うるさいなぁ」とか「喫煙しても癌にならない人も多いし、私もならないと思う」とか思われることも多いですし、もしも禁煙が成功しても、その後、癌になったら「言われたとおりに禁煙したのに癌になってしまった!」と怒られることもあるので、一次予防の方が、医師としては辛いですね。

私は、大腸腺腫や子宮頸部の異型上皮などの前癌病変を摘除することも「癌の一次予防」に含めていますが、「1.5次予防」と称している人もいます。

なお、虚血性心疾患の分野でも「一次予防」「二次予防」という言葉を使うことがありますが、意味が違うので注意が必要です。虚血性心疾患における「一次予防」は「一般集団における発症予防」、「二次予防」は「一度、発症した人の2回目の発症予防」を指します。循環器の先生と話をする時には気をつける必要がありますね。

誤解を避けるために、私はなるべく「一次予防」、「二次予防」という言葉は使わず、「発癌を予防する」「癌死を予防する」というように、具体的に予防の目的を記すようにしています。

日本がん予防学会

癌対策には、診断法や治療法の開発、早期発見のための検診の普及などがありますが、私は癌にならない対策がもっとも重要と思っています。癌にならないためには、生活を見直して、禁煙、過度の飲酒を避ける、適度な運動、適正体重の維持などをすること、ピロリ菌やB型およびC型肝炎ウイルス感染対策、パピローマウイルスワクチン接種などが考えられますが、薬で発癌を予防する「癌の化学予防」も研究が進んでいます。「癌にならない薬」ができたら素晴らしいですね!

その癌の化学予防の研究や、癌予防対策を実装する研究などを行い、癌予防を普及することを目的として活動している学会が「一般社団法人 日本がん予防学会」です。日本癌学会や日本癌治療学会などに比べると、小さな学会ですが、いろいろ熱心に活動をしています。ホームページも力を入れて入れていますのでぜひとも、ホームページもご覧ください。

日本がん予防学会ホームページ

https://jacp.info/

本学会には、学会誌はないのですが、ニュースレター(会報)はかなり内容が濃く、これを読むと日本における癌予防研究の状況がほとんど把握できます。学会員以外の先生も、これまでのすべてのニュースレターを見ることができますし、分野外の先生にもわかりやすく書かれていますので、ぜひとも読んでみてください。

また、「最新がん予防研究情報」として、癌予防研究で重要と考える論文などを紹介するコーナーもあります。会員の先生方より、随時、寄稿を頂戴しています。

また、本学会では「がん予防エキスパート制度」を立ち上げました。学会が開催するセミナーに参加して頂き、癌予防についての知識が十分と判断された会員には、「学会認定がん予防エキスパート」の称号を付与しています。市民公開講演会などで癌予防について講演する時などには、その称号を用いて頂き、質の高い癌予防講演をして頂くことを目的としています。がん予防エキスパートになれば、癌予防の講演などに使うことのできるスライドなども入手することができますので、がん予防エキスパート取得も目指してください。

さらには、癌予防に関する基礎研究や臨床研究の相談窓口も設けています。統計、倫理、疫学の専門家による臨床研究支援グループを組織しています。癌予防に関する研究などを行いたいと思ったら、遠慮なく連絡ください。予算獲得の支援もしますよ。

興味が少しでもあれば、ぜひとも学会にも加入してください。

切除と摘除

皆さんは、大腸ポリープを内視鏡的に取るときには「切除」と「摘除」のどちらを使いますか?

一般の人は「切除」を使うことが多いと思いますが、内視鏡医は「摘除」を使うことが一般的です。内視鏡医も昔は「切除」と言っていたのですが、ある先生から、「ポリープを真ん中からたすき掛けのように切ってしまうのではないので、「切除」ではなくまるごと取ってしまう「摘除」を使いなさい」と言われ、みんな「なるほどなぁ~」と思って「摘除」に変えたように思います。ただ、最近、一部の研究グループから、「切除」に戻そうという動きが出てきているようです。正確に表現しようとすると「大腸粘膜を切除して(切って)、大腸ポリープを摘除する」になるのでしょうか。用語は、あまり頻繁には変更してほしくないですね。

異型性と異形成

「異型性」と「異形成」、読み方も同じで意味も微妙に似ているので、混乱しますね。英語にすると「異型性; atypia」、「異形成; dysplasia」ですが、これらの言葉には、歴史的変遷もあり、かなりややこしいです。

私が若い頃には、大腸腺腫の正常組織からの乱れ方については、「軽度異型; mild atypia」「中等度異型; moderate atypia」「高度異型; severe atypia」の3段階で示され、病理報告では「adenoma with mild atypia」などと書かれていましたが、軽度異型と中等度異型は病理医により境界が不明瞭なため、「軽度異型+中等度異型」を「低異型度腺腫; low-grade adenoma」、「高度異型」を「高異型度腺腫; high-grade adenoma」と称することになりました(大腸癌取扱い規約第9版)。なお、異型には「細胞異型」と「構造異型」があり、病理診断する時に有用な概念と思います。

以前より、潰瘍性大腸炎における前癌病変と考えられている粘膜内の異型を持つ病変(異型上皮)を異形成(dysplasia)と称していました。その病理組織診断基準として、Riddellらによるdysplasia分類がわが国でも用いられています。なお、潰瘍性大腸炎における肉眼的に隆起を示す病変はDALMs(dysplasia-associated lesions or masses)と称しますね。

このように腺腫は「atypia」、潰瘍性大腸炎の異型上皮は「dysplasia」と区別されて用いられていれば問題はなかったのですが、Vienna分類において、低異型度腺腫/低異型度異形成(low-grade adenoma/dysplasia)、高異型度腺腫/高異型度異形成(high-grade adenoma/dysplasia)との言葉が示され、最近は腺腫の異型度の分類も「low-grade dysplasia」「high-grade dysplasia」と書かれることが増えて混乱するようになったと思います。

「『胃と腸』用語集 2012」には、「異型性atypiaが非定型的であることを表すのに対して、異形成は非定型的な発育(atypical development)を表す。病理組織学的には異型を示す上皮を表す用語として使われている。」と書かれており「atypia」は形容詞的な、「dysplasia」は名詞的な使い方がされていると考えると理解しやすいですね。

なお、「胃癌取扱い規約」と「大腸癌取扱い規約」には「異形成」の記載はありませんが、「食道癌取扱い規約第8版」には「異形成」の定義は記されています。