EBMと精密医療
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
年末・年始、いろいろ忙しく、ブログのアップが遅くなり、すみませんでした。これからは、できるだけ毎週、アップしていきたいと思いますので、引き続きおつきあいください。
今回のテーマは、「根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine:EBM)」と「精密医療(プレシジョン・メディシン:Precision Medicine)」です。
私が医師になった30年以上前には、これらの言葉も概念もありませんでした。医療現場は、先輩の医師達の経験で行われていた部分が多かったように思います。医師になって病院で勤務しはじめた時に、看護師さんから「患者さん、今日は入浴しても良いですか?」と聞かれ、「そのようなことは大学でも教えてもらっていなかったし、どうしたらよいのだろう」と悩み、指導係の先輩の先生に聞いて許可を出しました。
その後、米国でEBMが提唱され、199年代後半から日本でも知られるようになって来ました。最初、この単語を聞いたときには、「これまでの医療は根拠なしに行われてきていたのか!」と驚いたことを覚えています。EBMの根幹は臨床試験から得られた知見(エビデンス)であり、無作為割付臨床試験(randomized controlled trial:RCT、最近は「ランダム化比較試験」と称することも多くなってきました)で得られる知見がもっともレベルが高いとされています。たしかにRCTは未知の交絡因子もコントロールできる強力な方法ですが、RCT至上主義的な判断による弊害も出てきているように思います。きっちりとしたRCTを行おうとすると、かなり条件を絞り込む必要があり、かなり特殊な状況での結果(知見)になる危険性があります。RCTで得られた知見が、どの程度の集団にまで当てはめることができるのか(外挿性)については、慎重に判断する必要があります。また、例えば、新治療群では60%が有効で、対照群では30%のみ有効であった場合、有意な差であれば新治療が良いということになりますが、新治療でも40%の人は有効でなく、なかなか100%対0%にすることは難しいというジレンマもあります。
これらのことと遺伝子学的知見の集積により、「精密医療(プレシジョン・メディシン)」と言う考えが出てきたと思っています。「精密医療」とは、患者ごとの遺伝子や環境要因などの違いを考慮し、予防や治療法の確立を目指す医療で、その医療を「個別化医療」と称したり、予防を重視した場合は「先制医療」と称したりします。対象症例を絞り込み100%有効な医療を目指しているところは、割合の差を探すRCTの考え方と比較すると面白いですね。
EBMを行うための知見の創出のために、RCT的な考え方と、精密医療的な考え方を上手く取り入れて、試験を組み立てるのが良いと思います。