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βカロテンで肺がんが増える!

かなり前ですが、βカロテンの摂取で肺癌が増える研究が2つ報告されています。

一つはATBC Study(Alpha-Tocopherol Beta- Carotene Cancer Prevention Study)で1994年に報告されました。29,133人のフィンランド男性喫煙者に参加してもらいβ-カロテン(20㎎)とビタミンE(50㎎)毎日投与を評価する二重盲検試験です。5-8年間の追跡調査でβ‐カロテン投与群の肺がん罹患率が18%、虚血性心疾患の死亡率が11%、脳血管疾患死亡率が20%上昇しました。

もう一つはCARET(Beta-Carotene and  Retinol Efficasy Trial)で1996年に報告されました。18,314人の米国喫煙者・アスベスト曝露者に参加してもらいβ-カロテン(30㎎)とレチノール(25,000IU)の毎日投与を評価する二重盲検試験です。平均4年間の追跡調査で,投与群の肺がん罹患率が28%上昇したため途中で中止しています。

同時期に別の2つの下記の研究も報告されています。

Physicians’ Health Study(PHS)は、22,071人の米国男性医師に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)とアスピリン(325㎎)の隔日投与を評価する二重盲検試験で、5年間の追跡調査で,アスピリン投与群の虚血性心疾患の罹患率が51%低下、12年間の追跡調査でβ-カロテンにがんの予防効果なしでした。

Womens’ Health Study(WHS)は、39,876人の米国女性保健職に参加してもらいβ-カロテン(50㎎)、ビタミンE(600IU)、アスピリン(100㎎)の隔日投与    を評価する二重盲検試験でPhysicians’ Health Study とCARETの結果を受けて、β‐カロテンの投与を2年間で中止しました。その後2年間の追跡調査で、がんと循環器疾患の予防効果なしでした。

βカロテンにより肺癌が増えたATBC Study・CARETと、肺癌が増えなかったPHS・WHSの違いは何でしょうか。ATBC Study・CARETは、喫煙者で、PHS・WHSはほとんどが非喫煙者だったのです。その頃、研究者たちは、肺癌の高危険度群である喫煙者に肺癌を予防すると考えられていたβカロテンで肺癌を予防しようとしたのですが、喫煙者がβカロテンを服用すると逆に肺癌が増えてしまったのですね。

私たちは、大腸癌予防のためにアスピリンを投与する研究をしていますが、その試験でも、喫煙者がアスピリンを服用すると逆に大腸腫瘍を促進すること、そして、非喫煙者ではアスピリンは顕著に大腸腫瘍を抑制することを見いだしました。

やはり、体に悪いたばこは禁煙するのが大原則ですね。糖尿病の患者さんはしっかり食事制限をして必要に応じてインスリンを使用する、高脂血症の患者さんはしっかり運動・適正な食事をして必要に応じてスタチンを使用する、というように、最初から薬に頼らず、まずは自らの生活を正すことが大切なのは、癌予防でも同じようです。体に悪いことをしていても、薬を飲んでおけば大丈夫、というようには神様はさせてくれないようです。

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