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謝辞と共同研究者

学会の発表の時、最後のスライドで共同研究者を「謝辞」で紹介する発表を時々見かけますが、学会の場で共同研究者に謝辞を述べるのは、違和感があります。共同研究者は、いわば身内ですので、その身内を公の場でお礼を述べるのは、ふさわしくないです。共同研究者ではない効果安全性評価委員や監査委員、そして試験に参加してくれた患者さん達に謝辞をするのは良いですね。

教授と先生

皆さんは、いろいろな方から手紙もらうことがあると思いますが、そのときの宛名はどのように書かれていますでしょうか。下記のどれが一番良いと思いますか?

ア) ○○大学 ○○内科 ○○○○教授

イ) ○○大学 ○○内科 教授 ○○○○先生

ウ) ○○大学 ○○内科 ○○○○教授先生

私はイ)が良いように思います。「教授」は、一般社会における「社長」や「部長」と同じ地位を表す肩書きですね。同じ社内の人間であれば、「○○社長」や「○○部長」と言うこともありますが、他社の人に対して「○○部長」とは言わず「御社の部長の○○様」と言いますね。「教授」も同じ使い方が良いように思います。時々、ウ)で書かれている手紙も見かけますが、ちょっと慇懃無礼な感じがしますね。

施行と施工

学会発表などで「施行」という言葉は頻繁に使われますね。私が若い頃には「施行」を「セコウ」と言うと、上の先生から「道路工事の施工ではないのだからシコウと言いなさい」と怒られましたが、今でも学会などで「セコウ」と言われる先生が多いですね。「内視鏡を施行した」の時には「シコウ」の方が私のような世代には違和感がないです。なお、法令用語では「施行」を「セコウ」と読むそうです。ただ、NHKでは、工事の「施工(セコウ)」と区別するため法令も[シコウ]と読んでいるそうです。ややこしいですね。

学会での質問

皆さん、学会に参加されたことはありますね。若い時に、上の先生から「学会に参加したからには、1回ぐらいは質問をしなさい」と言われた人も多いと思います。学会に参加していて、眠いなぁ、と思っていても、この発表に対して質問しなくては、と考えると眠気も覚めてしまうので、質問を考えるのは悪くないですね。学会ではなぜ、質問をするのでしょうか。学会での質問には下記のように分類できると思います。

1) 発表内容に問題点・不明点・疑問点あり、それを問う。

2)その発表は私達が先に報告している。同様の経験をした。

3)このような研究を追加すれば、さらに良い研究になると提案する。

ほとんどの場合は1)ですね。参加者全員が疑問に思うであろう点については、最初に座長が確認することが多いです。結論が自分の考えと異なる場合など、しっかりディスカッションをすることが、学会の醍醐味ですので、ドンドン発言するのが良いと思いますが、その場合も感情的にならず紳士的に質問しましょう。また、ちょっと気まずい雰囲気になった場合には、発表後に会場を出て、名刺交換などをして挨拶をするのも良いと思います(次の人の発表の邪魔にならないように、会場から出てお話しましょう)。

2)については、同様の結果は私達がすでに○○雑誌にて公表している、などpriorityを主張することも悪くないですが、そのときには、自慢話になると感じが悪いので、さらっと言うようにしましょう。症例報告などで同様の症例を経験した、などは重要な情報なので、もしも、そのような経験があるならば、ぜひともお話しましょう。場合によっては、共同研究に発展するかもしれませんね。

3)は、とても前向きな提案で素晴らしいですが、なかなか難しいですね。会場で質問の内容を聞けば、質問者がこの分野について理解しているかばれてしまうので、かなり十分に考えてから話をしないと恥をかきそうです。

質問の最初に、「素晴らしい発表、ありがとうございます」と言う先生が増えましたね。紳士的な対応で、悪くないと思いますが、心にもないことを言っているな、と感じることもありますね。せっかく最初に褒めるのであれば、ピンポイントに短く具体的なところを褒めてから質問する方が、おしゃれですね。

発表を聞いていて、悪い点はすぐに気がつきますが、褒めるべき点を見つけるためには、かなり真剣に聞く必要があります。ぜひとも発表を聞くときには、問題点だけでなく、この発表の良いところもしっかり探しましょう。

質問は、だらだらとするのではなく、すっきり、わかりやすく質問をするようにしましょう。新型コロナウイルスの流行後、ほとんどの学会がウエブ開催になってしまいました。ウエブ開催では、チャットでの質問も一方通行になりますし、質の高いディスカッションは、とてもやりにくいように思います。やはり学会はリアルに現地で参加したいですね。

老婆心ながら。

■最初に

 こんにちは。京都府立医科大学分子標的予防医学特任教授、医療法人いちょう会石川消化器内科院長、有限会社メディカル・リサーチ・サポート副社長の石川秀樹です。私は、いろいろな立場で長く臨床研究に関わってきましたので、若い研究者の先生方に知っておいてほしいなぁ、と思うことも増えてきました。

 そこで、有限会社メディカル・リサーチ・サポートのホームページ内にブログを作りましたので、これから少しずつではありますが、これから研究を始めようと思っておられる先生方にお伝えしたいことを書いていこうと思いました。

 雑学的な情報が多いですので、気楽に流し読みして頂ければ幸いです。気になる点や質問などがありましたら、遠慮なくご連絡ください。

■学位(医学博士)とは

 ウィキペディアをみると学位とは「大学など高等教育機関や国家の学術評価機関等において、教育課程の修了者又はそれと同等の者に対して学術上の能力または研究業績に基づき授与される栄誉称号を言う」とあります。免許証のような資格ではなく単なる称号なのですね。

 ただ、私は学位(医学博士)とは、一人で自由に研究をしても良いという、研究者の免許証のようなものと思っています。

 私が若い頃には、「医学博士」と名刺に書いている医師が多かったです。私は兵庫医大を1984年に卒業して、すぐに阪大の第二内科に入局したのですが、臨床をしながら、同時に基礎的な研究もされている先輩方をみて、医師は全員、一度は基礎的研究をするものと思い込んでいました。その頃は、臨床研修が一通り終わったあと、大学に戻り、動物実験や培養細胞実験などの基礎的な研究をすることが医師の一般的なコースだったと思います。一部の先生は、臨床を完全に休止して、基礎系の教室に出向いて徹底的に基礎研究に没頭していました。私も、細胞膜のイオン輸送の研究や、高感度RIA系の開発、家族性大腸腺腫症モデルマウスの飼育、便中胆汁酸のガスクロによる測定など、基礎的な研究をいろいろ行いました。恥ずかしながら、これらの研究成果のほとんどは論文にすることができなかったのですが、その後、基礎的な論文を読むときに、実際の実験の様子をイメージすることができましたので、それらの経験は無駄ではなかったと思っています。また、基礎的な研究を通じて、科学的な考え方をいろいろ教えて頂くことができたと思います。

 これらの研究を頑張って医学博士を取得した先生の多くは、研究を止めて臨床に戻ることが多かったのですが、今、考えると、とてももったいないことだったと思います。自動車運転も教習所で練習しているだけでは運転の面白さは分からないですが、免許証を取って好きなところをドライブできて、初めて運転の楽しさが分かります。学位を取るまでは、指導者の下で、言われた研究をしているだけの仮免許状態ですが、学位を取得したならば、自分が知りたいと思うことを自由に研究できるようになり、研究の楽しさを実感できると思います。学位取得のための研究はあまり面白くないかもしれませんが、科学的考え方や、手技、倫理観などをしっかり学んで学位を取得することにより、自然の不思議を解き明かす素晴らしい体験をすることができるようになります。皆さんも、学位を取得して、ぜひとも研究をエンジョイしてください。