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異型性と異形成

「異型性」と「異形成」、読み方も同じで意味も微妙に似ているので、混乱しますね。英語にすると「異型性; atypia」、「異形成; dysplasia」ですが、これらの言葉には、歴史的変遷もあり、かなりややこしいです。

私が若い頃には、大腸腺腫の正常組織からの乱れ方については、「軽度異型; mild atypia」「中等度異型; moderate atypia」「高度異型; severe atypia」の3段階で示され、病理報告では「adenoma with mild atypia」などと書かれていましたが、軽度異型と中等度異型は病理医により境界が不明瞭なため、「軽度異型+中等度異型」を「低異型度腺腫; low-grade adenoma」、「高度異型」を「高異型度腺腫; high-grade adenoma」と称することになりました(大腸癌取扱い規約第9版)。なお、異型には「細胞異型」と「構造異型」があり、病理診断する時に有用な概念と思います。

以前より、潰瘍性大腸炎における前癌病変と考えられている粘膜内の異型を持つ病変(異型上皮)を異形成(dysplasia)と称していました。その病理組織診断基準として、Riddellらによるdysplasia分類がわが国でも用いられています。なお、潰瘍性大腸炎における肉眼的に隆起を示す病変はDALMs(dysplasia-associated lesions or masses)と称しますね。

このように腺腫は「atypia」、潰瘍性大腸炎の異型上皮は「dysplasia」と区別されて用いられていれば問題はなかったのですが、Vienna分類において、低異型度腺腫/低異型度異形成(low-grade adenoma/dysplasia)、高異型度腺腫/高異型度異形成(high-grade adenoma/dysplasia)との言葉が示され、最近は腺腫の異型度の分類も「low-grade dysplasia」「high-grade dysplasia」と書かれることが増えて混乱するようになったと思います。

「『胃と腸』用語集 2012」には、「異型性atypiaが非定型的であることを表すのに対して、異形成は非定型的な発育(atypical development)を表す。病理組織学的には異型を示す上皮を表す用語として使われている。」と書かれており「atypia」は形容詞的な、「dysplasia」は名詞的な使い方がされていると考えると理解しやすいですね。

なお、「胃癌取扱い規約」と「大腸癌取扱い規約」には「異形成」の記載はありませんが、「食道癌取扱い規約第8版」には「異形成」の定義は記されています。

リンチ症候群

自分の家族や親戚は、若い時に大腸癌や子宮癌になった人が多いなぁ、と思われた人はおられますでしょうか。そのような家系は「リンチ症候群」の可能性があります。

「リンチ症候群」は、大腸癌や子宮体癌、胃癌などが発生しやすい体質になる常染色体優性遺伝形式の遺伝性疾患です。日本人も多数の方が、この体質を持っていると考えられていますが、あまり医師の間でも知られておらず、自分がリンチ症候群と知っている人はとても少ないです。もしも、この体質であることが分かれば、生活習慣を見直し、早い時期から内視鏡検査や子宮体癌検診を受けることにより、癌で死亡することを避けることができますので、多くの人に知っておいてほしい知識と思います。

そこで、日本消化器病学会付置研究会「がんゲノム医療時代における Lynch 症候群研究会(代表:田中信治先生)」において、医師向けのリンチ症候群を紹介する小冊子を作成しました。下記のホームページからPDFを見ることができます。

https://endosc.hiroshima-u.ac.jp/images/Lynch.pdf

医師の皆さんには、ぜひとも読んでほしいと思います。また、医師以外の方にもわかりやすく書いていますので、興味のある方は、読んでみてください。

リンチ症候群の癌は、治療後の成績の良い人が多く、また、免疫チェック阻害剤の効果もとても良いことが知られています。自分の体質を知ることにより、心配が増えることもありますが、生活習慣の見直しや「早期発見・早期治療」による対応策がありますので、前向きに自分の体を守る情報にしてほしいです。

50代と50歳台

50歳台と50代の違いをご存じでしょうか。「50代」は「おおよそ50歳~59歳」を指していて、「歳」をつけないことが多いです。「50歳台」は「50歳以上、60歳未満」を示します。

「代」と「台」読み方が同じなので、間違いやすいですね。気をつけましょう。

お勧めの統計のホームページ

最近は、インターネットで簡単に統計に関する計算などをすることができて便利ですね。私がよく使っているホームページを紹介します。

 

※正確な二項分布における95%信頼区間を算出するホームページ

正確な二項分布における95%信頼区間は、エクセルや手計算などでは、簡単に計算できませんが、下記のホームページに数字を入れると簡単に正確な二項分布における95%信頼区間が算出されます。この値を本当に信用して良いのか、統計の専門の先生に確認してもらったのですが、値は間違いないようです。

<正確な二項分布における信頼区間>

http://statpages.org/confint.html

 

※必要症例数を計算する時に便利なホームページ

試験を開始する前には、αエラーやβエラーなどを決めて、必要症例数を計算することが多いですが、そのときに便利なホームページがあります。慶応大学の長島健悟先生が作成された下記のホームページで、いろいろな試験における必要症例数を計算することができます。

<慶応大学の長島健悟先生のホームページ>

https://nshi.jp/contents/

このホームページの良いところは、その計算式の根拠となる引用文献がついているところです。統計の専門家の先生方も、このホームページを使われているようで、ある統計の先生は、必要症例数のホームページを作ろうと思ったけれど、このホームページが優れているので、自分では作らずにこれを使わせてもらっているとおっしゃっていました。

どの計算式を使うのが良いかや、αエラー、βエラー、閾値などの設定は、統計や疫学の先生方と相談しながら必要症例数を算出するようにしましょう。

お勧めの統計の本

臨床医にとって統計はとても難しいですね。臨床医は、毎日一人一人の患者さんと向き合って診療しており、その患者さんにとっては100か0かの世界ですので、「この患者さんは40%治る」と言われてもピンとこないですね。ただ、臨床研究をする時には、どうしても統計は避けて通ることができませんので、統計の本を買われた先生も多いと思います。ただ、統計の本は、難しいものが多く、読み切ることができないことが多いですね。

下記の本は、とてもボリュームも少なく読みやすいので、お勧めです。

「たったこれだけ!医療統計学(奥田千恵子訳)」金芳堂

現在、第3版が出ています。数式ほとんど出ておらず、シンプルな記載(ちょっとシンプルすぎるぐらいです)で臨床の先生にもわかりやすい内容と思います。奥田千恵子先生は、他にもいろいろ本を書かれていますが、どれも読みやすい内容です。

他には、大阪市大の新谷歩先生も統計を臨床医にわかりやすく解説されていますのでお勧めです。You Tubeで講義を見ることもできますので、ぜひともチェックしてみてください。

古典的な統計に対するものとして、「ベイズ統計」があります。事前確率から条件を加えることにより事後確率を求めるベイズ統計の考え方は、日常診療で患者さんの診断をつけるときに常に医師が行っている思考にとても似ているので、医師にとってはなじみやすい統計だと思います。興味のある先生は、ぜひともベイズ統計も勉強してみてください。ベイズ統計では、下記の本をお勧めです。

「なぜベイズを使わないのか!? -臨床試験デザインのために-(手良向聡著)」金芳堂

https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1723-8/

医療関係では、ますますベイズ統計が重視されるようになるかもしれません。

私も、死ぬまでにベイズ理論をなんとか理解したいと思っているのですが、本を読んでわかった様な気持ちになっても、すぐに混乱してしまいます。勉強しなくてはならないことが多すぎて大変です!