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大工さんと鍛冶屋

試験を行うためには、多くの専門家の人達の協力が必要です。疫学者、統計学者、基礎研究者、ソーシャルワーカー、カウンセラー、看護師、検査技師、CRC、医師、倫理審査委員会、予算を出すAMEDなど多くの専門家が試験の実施に関わります。

前回のブログできしましたように内科学の研究者は、検査法や治療法、予防法を開発することを担当しており、その目的のために試験を行うことが多いです。

内科研究者は家を建てる大工さんのような位置づけと私は思っています。大工さんは、いろいろな道具を使って家を建てますが、内科研究者はいろいろな科学的ツールを使って試験を実施して、エビデンスを作ります。大工さんは、かんなや鋸などを駆使しますが、内科研究者は統計学や疫学などを駆使して臨床試験をします。大工さんは、かんなや鋸の使い方は上手ですが、鍛冶屋のように自分で鋸を作ったりしません。それと同じように、内科研究者は統計学や疫学を上手に使えるように勉強する必要はありますが、統計学や疫学を究めなくても大丈夫です。自分と相性の合う統計学者や疫学者と上手に連携して、道具として適切に使えるようになることが大切ですね。

内科学とは

内科学とは、どのような学問でしょうか。私は、内科学とは主に下記の3つを研究する学問と思っています。

1) 病気の原因を探り、病気を定義し分類する。

2) 検査法、診断法を開発する。

3) 治療法、予防法を開発する。

私がメインで行っている研究は、大腸癌の予防法の開発ですが、これも内科学の一つですね。

新しい病気を見つけ、その原因を探求し、疾患を分類することは、とても重要ですが、変な分類を作ってしまうと、その後の研究や診療に混乱を来すため、分類を作る時は、慎重に作る必要があります。その分類が、機序による分類なのか、治療効果による分類なのか、診断に役立つ分類なのか、などをよく考えてから分類法を提唱することが重要ですね。

一次予防と二次予防の効果の違い

毎週、月曜にブログをアップする予定にしていたのですが、先週は雑用におわれアップすることができず、申し訳ございませんでした。

以前のブログで「癌の一次予防」や「癌の二次予防」を紹介しました。「癌の一次予防」は禁煙などにより「発癌を予防する」、「癌の二次予防」は検診などにより早期発見・早期治療をして「癌死を予防する」ことですね。例えば、胃癌の死亡者数が減ってきたときに、この2つの予防のどちらによる効果だったのかを知る方法があることをご存じでしょうか。

胃癌の場合、二次予防は胃癌検診、一次予防はピロリ菌の感染減少が代表的ですね。もしも、二次予防の検診が有効であった場合には、胃癌の死亡率は減少しますが、発癌は予防しないので、罹患率は変化しません(本当は、過剰診療があり、罹患率は増えることが一般的です)。それに対して、一次予防が有効な場合には、まず、罹患率が減少し、それを追いかけるように死亡率が減少します。


すなわち、罹患率と死亡率の変化を比べることにより、一次予防(発癌予防)と二次予防(癌死予防)の効果の違いを知ることができます。国立がん研究センターのホームページで、臓器別の年別罹患率と死亡率は簡単にダウンロードできますので、現在、死亡率が減少している肺癌や肝癌、胃癌などが、どのような理由で減少しているのかを、グラフを書いて考えてみると面白いですね。胃癌の減少はどちらの理由だったのか、ぜひとも調べてみてください。

大腸内視鏡実践研究会

2010年頃から、米国よりNPSなど大腸内視鏡検査による強力な大腸癌罹患、死亡抑制効果を示す成果が数多く発表されるようになってきました。その知見をもとに米国では50歳時に、国民全員が無償で大腸内視鏡検査を受けることができる施策が実施されて大腸癌の罹患率、死亡率が激減しました。それに対して本邦では、2005年3月に大腸癌検診のガイドラインができてから現在まで全く改定されていません。16年間で科学や医学は大きく進歩しましたが、その期間、全くガイドラインが改定されなかったことは、大変な驚きですね。やっと、最近になり大腸癌検診のガイドラインを改定するためのための作業が始まったようです。その新しいガイドラインでは、大腸内視鏡検査が大腸癌対策の重要な検査として位置づけられる可能性が高いと思われます。しかし、仮に大腸内視鏡検査が大腸癌検診で重要な役割を担うことになったとしても、現在の本邦では国民全員が50歳の時点で大腸内視鏡検査を実施できるような体制は整っていません。

そこで、国民の多くが大腸内視鏡検査を受けることができるように、市中病院・クリニックにおける大腸内視鏡検査の量と質の向上および均てん化のために「大腸内視鏡実践研究会」を創設しました。

本研究会は、臨床の最前線のクリニックで多数の大腸内視鏡検査を実施している先生方に幹事になって頂き、これから市中病院やクリニックで積極的に大腸内視鏡検査を実施していこうと考えている先生方を支援するために、ホームページの開設と年1回の研究会の開催などをすることに致しました。さらには、大腸内視鏡を主な業務としている内視鏡開業医の先生方を対象とした実態把握研究などのプロジェクトも実施しています。

大腸内視鏡検査で開業をしようと考えておられる先生方にお役にたついろいろな情報も提供しています。幹事の先生方のクリニックを紹介する動画もアップしています。今年開催されました第1回研究会のほとんどの内容はホームページで見ることができます。

本研究会に興味をお持ちの先生におかれましては、ぜひとも下記のホームページから会員登録を行って頂き、日々の診療における大腸内視鏡検査の参考にしてください。

http://daichounaishikyoujissen.kenkyuukai.jp/special/?id=34232

預け金

国から支給される研究費の多くは3月までに予算を使い、余った分は国に返金します。文科省の研究費の一部では、3月の時点で使わなかった予算は次年度へ持ち越しが可能なこともありますが、これはかなり例外的な取り扱いになります。

年度末に余った研究費を国に返金したくないため、業者にお金を預けて次年度以降にそのお金を使うことを「預け金」と言い、犯罪です。これをする場合、国の予算はその年度で使うことが必要ですので、見かけ上は予算を使った形にする必要があり、架空の発注をして予算が執行されたようにしてお金を業者に渡します。架空の領収書が出されている時点で、すでに犯罪ですね。業者はその預かったお金の記録を裏台帳に記して、次年度に研究者が希望する物品をその裏台帳から支出して渡すのが「預け金処理」です。

これをするためには、架空の発注や領収書、請求書などが必要になりますので、しつこいようですが、それをした時点で犯罪です。研究に必要なものを次年度以降に執行しても、この行為自体が犯罪ですので、絶対にしてはいけません。

ただ、年度をまたぐ研究の場合、判断が難しい場合もあります。年度単位での予算執行を極端に考えると、その年度に購入した試薬などは年度をまたがずに3月末で廃棄しなくてはならない、動物実験で飼っていたラット・マウスも年度末にすべて屠殺しなくてはならない、などという馬鹿げた話にもなりかねません。

現在、多くの介入試験では臨床研究保険への加入が義務づけられていますが、複数年におよぶ長期間の試験であっても、保険会社の見積もりは試験全体で行われ、保険の掛け金は試験開始時に支払うように指示されることが多いです。ただ、複数年度の保険の掛け金を、その年度の予算で支払うことについては、当局から問題点を指摘されて、保険会社と交渉が必要になることもあります。

家を建てる時などは、完成して引き渡される時だけでなく、最初の時には手付け金、途中でも数回に分けて建築費を支払うのが一般的です。長期間にわたる大きな研究プロジェクトなどでは、単年度ではなくプロジェクト全体に予算がつくようにする必要があるように思います。毎年の予算執行の管理は必要と思いますが、研究者が研究に集中できるように、できるだけ使いやすい方法を考えてほしいですね。