ブログ

名義貸し

研究をする時には、人手がかかりますね。大きな試験を始めるときには、研究者自身が頑張るだけでなく、同じ教室の先生方、医局の秘書さんや事務スタップにもいろいろな作業をお願いすることが多いと思いますが、それだけではとてもできないことも多く、そのプロジェクトのために非常勤職員(バイト)を雇ったり、派遣会社に事務員の派遣を依頼したりすることもあると思います。これらは正規の予算執行ですが、ここで不正がおこることがあります。知人の仕事をしていない奥さんなどに、形だけバイトをしていることにして、給与を渡して、その一部を返してもらう(キックバック)犯罪があります。

研究費の執行のためには、バイトとして雇用した人の履歴書や出勤簿などをつけることも必要で、かなり手のこんだ犯罪であり、それだけに証拠も残りやすく、もしも発覚したときには言い訳できない犯罪ですので、ばれたら研究者人生が終わりますよ!絶対にしてはダメです。

研究費を用いた犯罪について

毎月のように研究者の研究費に関わる犯罪の報道があります。とても残念なことと思います。ただ、ニュースで放送される内容を聞くだけでは、一体どのような方法で、悪いことが行われたのか、イメージできないことも多いのではないかと思います。

研究費の不正使用方法を知っておくことは、自分や仲間の先生方が、知らずに行ってしまうことを防ぐことにもなりますので、このブログでご紹介したいと思います。ただ、これを読んで、真似をして不正をしたらダメですよ。必ず捕まります!

研究費の不正使用には、代表的なものとして下記の3つがあります。

1)空出張

2)名義貸し

3)預け金処理

これらを国の予算(私達の税金ですね)から支払われた研究費を使って行うことは、明らかな犯罪であり、場合によっては脱税の罪にも問われます。絶対にしないようにしてください。

1)空出張

兵庫県のとある議員が、毎週のように城崎温泉に行ったことにして、その交通費をネコババしたことが報道されたように、すぐに誰でも思いつく犯罪ですね。この人は台風で電車が走っていない日まで計上してばれましたね。

キップを買って、すぐに払い戻しをしたり、金券ショップで売ったりして現金を手に入れて、実際には出張に行かないことは、誰が考えても犯罪ですね。過去には、そのようなことをする人が多かったためか、実際に乗車に使ったキップを改札口で「記念乗車・使用済」のハンコを押してもらい、現物を提出しなくてはならない時期もありました。そのときには、背広を着た国の費用で出張しているのであろう人達が、改札で並ぶような風景もありました(さすがに、現在は現物のキップの提出は免除されるようになりましたが)。

国の予算でなく、製薬メーカーからの講演会出席などの交通費支給であれば、国の予算を用いた詐欺にはならないですが、税金のかからない収入になりますので、脱税になります。製薬メーカーとしても、せっかく交通費を出しているのに行ってくれないのは、不義理な奴ですね。

このような明らかな空出張でなくても、1回の出張で、複数の用事をして、それぞれから交通費をもらうことも不正になります。宿泊などもするとかなりの金額になりますし、これらの支出記録は長期間保管されますので、何年も経ってから調べられてばれることもあります。こんなことで、研究者生命を絶たれてしまうことはとても残念ですので、絶対にしないようにしましょう。

なお、キップを買うときにポイントを獲得した場合や、飛行機などのマイレージは、支出される官庁(厚労省、文科省、AMEDなど)や所属する機関(大学、病院など)で取得の可否が決められていますので、獲得する時には、それらの事務と相談しましょう。飛行機のマイレージは、取得すると取り消すのがかなり面倒なので、気をつけましょう。

2)名義貸し、3)預け金処理は、次のブログでご紹介します。

一次予防と二次予防

皆さんは、「癌の一次予防」や「癌の二次予防」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。「癌の一次予防」は「発癌を予防する」、「癌の二次予防」は「癌死を予防する」ことを指します。

癌の二次予防の代表は「早期発見・早期治療」の検診ですね。ただ、より良い手術や化学療法を開発することも癌死を防ぐためなので、二次予防に含まれると私は考えています。

それに対して、「癌の一次予防」は、禁煙対策やピロリ菌や肝炎ウイルスの対策、そして薬で発癌を予防する「化学予防」などがあります。それぞれの予防法の開発は大切ですが、癌にならない研究が特に重要と思っています。病気にはならないことが一番ですよね。

ただ、検診では、「早く癌が見つかって良かった」と患者さんには感謝されますが、頑張って禁煙指導しても、「うるさいなぁ」とか「喫煙しても癌にならない人も多いし、私もならないと思う」とか思われることも多いですし、もしも禁煙が成功しても、その後、癌になったら「言われたとおりに禁煙したのに癌になってしまった!」と怒られることもあるので、一次予防の方が、医師としては辛いですね。

私は、大腸腺腫や子宮頸部の異型上皮などの前癌病変を摘除することも「癌の一次予防」に含めていますが、「1.5次予防」と称している人もいます。

なお、虚血性心疾患の分野でも「一次予防」「二次予防」という言葉を使うことがありますが、意味が違うので注意が必要です。虚血性心疾患における「一次予防」は「一般集団における発症予防」、「二次予防」は「一度、発症した人の2回目の発症予防」を指します。循環器の先生と話をする時には気をつける必要がありますね。

誤解を避けるために、私はなるべく「一次予防」、「二次予防」という言葉は使わず、「発癌を予防する」「癌死を予防する」というように、具体的に予防の目的を記すようにしています。

日本がん予防学会

癌対策には、診断法や治療法の開発、早期発見のための検診の普及などがありますが、私は癌にならない対策がもっとも重要と思っています。癌にならないためには、生活を見直して、禁煙、過度の飲酒を避ける、適度な運動、適正体重の維持などをすること、ピロリ菌やB型およびC型肝炎ウイルス感染対策、パピローマウイルスワクチン接種などが考えられますが、薬で発癌を予防する「癌の化学予防」も研究が進んでいます。「癌にならない薬」ができたら素晴らしいですね!

その癌の化学予防の研究や、癌予防対策を実装する研究などを行い、癌予防を普及することを目的として活動している学会が「一般社団法人 日本がん予防学会」です。日本癌学会や日本癌治療学会などに比べると、小さな学会ですが、いろいろ熱心に活動をしています。ホームページも力を入れて入れていますのでぜひとも、ホームページもご覧ください。

日本がん予防学会ホームページ

https://jacp.info/

本学会には、学会誌はないのですが、ニュースレター(会報)はかなり内容が濃く、これを読むと日本における癌予防研究の状況がほとんど把握できます。学会員以外の先生も、これまでのすべてのニュースレターを見ることができますし、分野外の先生にもわかりやすく書かれていますので、ぜひとも読んでみてください。

また、「最新がん予防研究情報」として、癌予防研究で重要と考える論文などを紹介するコーナーもあります。会員の先生方より、随時、寄稿を頂戴しています。

また、本学会では「がん予防エキスパート制度」を立ち上げました。学会が開催するセミナーに参加して頂き、癌予防についての知識が十分と判断された会員には、「学会認定がん予防エキスパート」の称号を付与しています。市民公開講演会などで癌予防について講演する時などには、その称号を用いて頂き、質の高い癌予防講演をして頂くことを目的としています。がん予防エキスパートになれば、癌予防の講演などに使うことのできるスライドなども入手することができますので、がん予防エキスパート取得も目指してください。

さらには、癌予防に関する基礎研究や臨床研究の相談窓口も設けています。統計、倫理、疫学の専門家による臨床研究支援グループを組織しています。癌予防に関する研究などを行いたいと思ったら、遠慮なく連絡ください。予算獲得の支援もしますよ。

興味が少しでもあれば、ぜひとも学会にも加入してください。

切除と摘除

皆さんは、大腸ポリープを内視鏡的に取るときには「切除」と「摘除」のどちらを使いますか?

一般の人は「切除」を使うことが多いと思いますが、内視鏡医は「摘除」を使うことが一般的です。内視鏡医も昔は「切除」と言っていたのですが、ある先生から、「ポリープを真ん中からたすき掛けのように切ってしまうのではないので、「切除」ではなくまるごと取ってしまう「摘除」を使いなさい」と言われ、みんな「なるほどなぁ~」と思って「摘除」に変えたように思います。ただ、最近、一部の研究グループから、「切除」に戻そうという動きが出てきているようです。正確に表現しようとすると「大腸粘膜を切除して(切って)、大腸ポリープを摘除する」になるのでしょうか。用語は、あまり頻繁には変更してほしくないですね。