若手研究者へ 記事の一覧です
リンチ症候群
自分の家族や親戚は、若い時に大腸癌や子宮癌になった人が多いなぁ、と思われた人はおられますでしょうか。そのような家系は「リンチ症候群」の可能性があります。
「リンチ症候群」は、大腸癌や子宮体癌、胃癌などが発生しやすい体質になる常染色体優性遺伝形式の遺伝性疾患です。日本人も多数の方が、この体質を持っていると考えられていますが、あまり医師の間でも知られておらず、自分がリンチ症候群と知っている人はとても少ないです。もしも、この体質であることが分かれば、生活習慣を見直し、早い時期から内視鏡検査や子宮体癌検診を受けることにより、癌で死亡することを避けることができますので、多くの人に知っておいてほしい知識と思います。
そこで、日本消化器病学会付置研究会「がんゲノム医療時代における Lynch 症候群研究会(代表:田中信治先生)」において、医師向けのリンチ症候群を紹介する小冊子を作成しました。下記のホームページからPDFを見ることができます。
https://endosc.hiroshima-u.ac.jp/images/Lynch.pdf
医師の皆さんには、ぜひとも読んでほしいと思います。また、医師以外の方にもわかりやすく書いていますので、興味のある方は、読んでみてください。
リンチ症候群の癌は、治療後の成績の良い人が多く、また、免疫チェック阻害剤の効果もとても良いことが知られています。自分の体質を知ることにより、心配が増えることもありますが、生活習慣の見直しや「早期発見・早期治療」による対応策がありますので、前向きに自分の体を守る情報にしてほしいです。
50代と50歳台
50歳台と50代の違いをご存じでしょうか。「50代」は「おおよそ50歳~59歳」を指していて、「歳」をつけないことが多いです。「50歳台」は「50歳以上、60歳未満」を示します。
「代」と「台」読み方が同じなので、間違いやすいですね。気をつけましょう。
お勧めの統計のホームページ
最近は、インターネットで簡単に統計に関する計算などをすることができて便利ですね。私がよく使っているホームページを紹介します。
※正確な二項分布における95%信頼区間を算出するホームページ
正確な二項分布における95%信頼区間は、エクセルや手計算などでは、簡単に計算できませんが、下記のホームページに数字を入れると簡単に正確な二項分布における95%信頼区間が算出されます。この値を本当に信用して良いのか、統計の専門の先生に確認してもらったのですが、値は間違いないようです。
<正確な二項分布における信頼区間>
http://statpages.org/confint.html
※必要症例数を計算する時に便利なホームページ
試験を開始する前には、αエラーやβエラーなどを決めて、必要症例数を計算することが多いですが、そのときに便利なホームページがあります。慶応大学の長島健悟先生が作成された下記のホームページで、いろいろな試験における必要症例数を計算することができます。
<慶応大学の長島健悟先生のホームページ>
このホームページの良いところは、その計算式の根拠となる引用文献がついているところです。統計の専門家の先生方も、このホームページを使われているようで、ある統計の先生は、必要症例数のホームページを作ろうと思ったけれど、このホームページが優れているので、自分では作らずにこれを使わせてもらっているとおっしゃっていました。
どの計算式を使うのが良いかや、αエラー、βエラー、閾値などの設定は、統計や疫学の先生方と相談しながら必要症例数を算出するようにしましょう。
お勧めの統計の本
臨床医にとって統計はとても難しいですね。臨床医は、毎日一人一人の患者さんと向き合って診療しており、その患者さんにとっては100か0かの世界ですので、「この患者さんは40%治る」と言われてもピンとこないですね。ただ、臨床研究をする時には、どうしても統計は避けて通ることができませんので、統計の本を買われた先生も多いと思います。ただ、統計の本は、難しいものが多く、読み切ることができないことが多いですね。
下記の本は、とてもボリュームも少なく読みやすいので、お勧めです。
「たったこれだけ!医療統計学(奥田千恵子訳)」金芳堂
現在、第3版が出ています。数式ほとんど出ておらず、シンプルな記載(ちょっとシンプルすぎるぐらいです)で臨床の先生にもわかりやすい内容と思います。奥田千恵子先生は、他にもいろいろ本を書かれていますが、どれも読みやすい内容です。
他には、大阪市大の新谷歩先生も統計を臨床医にわかりやすく解説されていますのでお勧めです。You Tubeで講義を見ることもできますので、ぜひともチェックしてみてください。
古典的な統計に対するものとして、「ベイズ統計」があります。事前確率から条件を加えることにより事後確率を求めるベイズ統計の考え方は、日常診療で患者さんの診断をつけるときに常に医師が行っている思考にとても似ているので、医師にとってはなじみやすい統計だと思います。興味のある先生は、ぜひともベイズ統計も勉強してみてください。ベイズ統計では、下記の本をお勧めです。
「なぜベイズを使わないのか!? -臨床試験デザインのために-(手良向聡著)」金芳堂
https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1723-8/
医療関係では、ますますベイズ統計が重視されるようになるかもしれません。
私も、死ぬまでにベイズ理論をなんとか理解したいと思っているのですが、本を読んでわかった様な気持ちになっても、すぐに混乱してしまいます。勉強しなくてはならないことが多すぎて大変です!
お勧めの疫学の本
臨床の先生方が臨床研究をされるときには、ぜひとも読んでほしい本があります。それは、下記の本です。
「基礎から学ぶ楽しい疫学」 中村好一著
医学書院
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/108378
自治医大公衆衛生学教授の中村好一先生が執筆された教科書で、現在、第4版が出ています。とてもわかりやすく書かれているのですが、内容はきわめて高度で、これ1冊で、疫学のことはすべて網羅している本です。
脚注に中村先生の気持ちがつまっていて、脚注を読むだけでも楽しくなる本です。私は、いつも机の上において、分からないことがあればすぐに読むようにしています。
お勧めの翻訳ソフト
最近の翻訳ソフトはとても高性能になってきていますね。自分で英語を作文するより、はるかに良い英語文章を作ってくれます。英語の論文も翻訳して斜め読みできるので、愛用しています。一番有名な翻訳ソフトは、グーグル翻訳ですね。最近、医学分野に優れた翻訳ソフトが無料で使える用になりました。私は下記の2つのソフトを愛用しています。
■ DeepL翻訳ツール
https://www.deepl.com/translator
・このソフトをパソコンに入れておくと、翻訳したいところを選択して「Ctrl」を押しながら「C」を2回クリックするだけで、その範囲が翻訳されます。翻訳文もとても自然で読みやすい文章です。
■ DocTranslator
https://www.onlinedoctranslator.com/ja/
・このソフトの良いところは、PDFの論文ファイルを、ほとんど形を崩さずに一気に翻訳できる点です。以前はPDFから翻訳箇所をコピーして翻訳ソフトに入れていましたが、改行などが入り翻訳するのが面倒でした。このソフトのおかげで、PDFの論文が一気にすべて翻訳できるので、とても重宝しています。
病院長と学長、どちらのサインがいるのでしょうか?
大学病院などで研究を行うには、ほとんどの場合、トップの了解を必要とします。
臨床研究法における特定臨床研究においては、「実施医療機関の管理者」の承認を得て研究を実施する必要があります。ここで言う「実施医療機関の管理者」は、多くの場合「病院長」になります。それに対して、2021年6月30日から施行された生命・医学系新倫理指針では研究機関の長は「研究が実施される法人の代表者若しくは行政機関の長又は研究を実施する個人事業主」とされていますので、その許可となれば、多くの大学では「学長」または「理事長」の承認を得て研究を実施することになります。うーん、ややこしいですね。
しゃっくり、ゲップ、あくび、おなら、おしっこの漢字、書けますか?
医学的にはどーでもいい話ですが、しゃっくりやゲップなどの生理現象をカルテに書くとき、なんとなく漢字で書いた方がかっこいいですね。皆さんは漢字で書けますでしょうか。
しゃっくり(吃逆;きつぎゃく)、ゲップ(曖気;あいき)、あくび(欠伸;あくび)、おなら(放屁;ほうひ)、おしっこ(排尿;はいにょう)ですね。あくび以外、読み方も違うのがなんとなく面白いです(これもどーでもいい話ですが)。
特定臨床研究における多施設共同研究について
特定臨床研究における多施設共同研究は、これまでの倫理指針と異なる運用になるため、ちょっとしつこいですが、もう一度、このテーマを取り上げます。
プロトコールを改定して認定臨床研究審査委員会(CRB)にて承認されても、jRCTで改定内容が公開されるまでは、施設管理者の承認を得られている施設も含め旧プロトコールで試験を実施することになります。
もしも、新プロトコールの承認が得られていない施設の存在する時点で、jRCTにて改定を公開すると、承認の得られていない施設は旧プロトコールでの試験もできなくなりますので、注意が必要です。CRBで改定が承認後、すべての医療機関の管理者の承認を得てから、その承認結果と改定内容をjRCTで公開して、全施設が同時に新プロトコールに移行するのが望ましいと思います。
ただし、抜け道もあります。2019年11月13日の厚労省からの臨床研究法Q&Aの「問2-4」において「実施中の多施設共同研究を円滑に進める観点から、例えば、他の実施医療機関の管理者の変更等、自施設における臨床研究の実施に与える影響が乏しい研究計画書の変更に係る実施医療機関の管理者の承認については、各実施医療機関においてあらかじめ定めた手続に基づき事後的に行うこととするなど、可能な限り柔軟に対応することとして差し支えないか。」は「差し支えない。」と回答されています。このように柔軟に対応することも可能なので、その医療機関への影響が乏しいと考える改定であれば、その医療機関は後日に承認を得ることとして、その医療機関の管理者の許可がなくてもjRCTには「承認」として公開することも可能なのですね。その場合も、事後に管理者の許可は必ず取るようにしましょう。
これまでの医学系倫理指針では、各施設の倫理審査委員会(IRB)でプロトコールの改定が承認された場合、その施設においては新プロトコールで試験が実施され、旧プロトコールのみIRBと施設で承認された施設では旧プロトコールで試験が実施されて、複数のバージョンが同時に実施される状況が起こり得ましたが、特定臨床研究ではそのような複数のバージョンで試験が同時に行われることは起こりえないため、ご注意ください。
多施設共同研究のプロトコール改定はとても面倒です
最近、日本においても多施設共同研究が盛んに行われるようになってきました。単施設では良い結果であっても、実は特殊な状況での試験結果であり、他の施設では当てはめられなかったことが多くあります。多施設共同研究において、どこの施設でも同一の結果であれば、他の施設でも同じ結果が得られる可能性が高くなるため、得られた結果の信頼性はより高いと言えます。ただ、多施設共同研究を行う場合には、いろいろな気をつける事があります。
2021年6月末までの医学系倫理指針における多施設研究では、研究代表者が所属する施設の倫理審査委員会(主倫理審査委員会)の審査を受けて承認を得た後に、プロトコールにその承認書を添付して各参加施設の倫理審査委員会で迅速審査を受けて個別に承認を得ていました。承認が得られた施設は、その施設長の了解が得られればすぐに試験が開始できました。その後、プロトコール改定された場合には、改定された新プロトコールが主倫理審査委員会の審査を受けて承認が得られたらその施設は新プロトコールにて試験が実施され、他施設においても各施設の倫理審査委員会でプロトコール改定の審査を受ける必要がありますが、承認されるまでは旧プロトコールで試験を実施することが可能でした。そのため、いろいろなバージョンのプロトコールが同時に進行することが多くありました。
それに対して、臨床研究法における特定臨床研究では、多施設共同研究は一括審査が原則であり、プロトコールの改定も認定臨床研究審査委員会(CRB)にて一括承認されるため、CRBにてプロトコールが改定された場合には、全施設で一気に新プロトコールに改定する必要があります。jRCTで公開されている内容が改定された場合には、各医療機関の管理者(多くは病院長)の承認を得たのちjRCTにて公開されると改定が発効し、改定内容で試験を実施することになります。jRCTにてプロトコールの改定が公開された時点において、もしも、改定したプロトコールを病院長が承認していない場合には、その施設は旧プロトコールでも試験を実施することはできなくなりますので、注意が必要です。
2021年6月30日から施行された新倫理指針「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」においても多施設研究は一括審査が原則となっていますが、改定の取り扱いについては、複数のバージョンのプロトコールが同時に行われることは許容されないと思いますので、同じような注意が必要と思われます。多施設共同研究は、気をつけなくてはならないことがとても多いので、自分ですべて対応せずに、臨床研究支援センターなどの専門家に応援をしてもらいましょう。
なお、新倫理指針「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、「多施設共同研究」のことを「多機関共同研究」と称することになりました。覚えるのが大変ですね。