若手研究者へ 記事の一覧です
改定、改訂、改正
プロトコールなどを変更する場合は「改定」、「改訂」、「改正」のどれでしょうか?これらの3つの言葉は紛らわしいですね。「改定」は「以前のものを改めて新しく定めること」、「改訂」は「書類の内容を改めて正すこと、文章の誤りを直すこと」、「改正」は「不備な点を改めること、事後的にそぐわないと感じられた箇所を直すこと」だそうです。プロトコールの場合は、誤植などの修正でなければ「改定」を用いることが多いですね。「改訂」は、誤字・脱字などの明らかな間違いを訂正する時に用いるのですが、教科書などで用いる「改訂版」は、「書物に改定が施されたものを指す」のだそうです。法律用語としては、「「改定」された法令文に沿うように新しく法令集を「改訂」する」と言うそうです。ただ、憲法に関しては「憲法改正」という熟語があるように、「「憲法改正」は、以前の憲法は時代が変わったので内容がそぐわないので正す」という意味で使われているようです。とてもややこしいですね。
なお、JCOGという研究グループでは「改訂」や「改正」について独自の定義を設定しているようです。JCOG関係で書類を作成されるときにはご注意ください。
前向き研究と後ろ向き研究
多くの研究で、研究タイトルに前向き(prospective)や後ろ向き(retrospective)という単語がついていますが、「後ろ向き」については、かなり混乱しているように思っていました。「ICR臨床研究入門」の口羽文先生の「観察研究・レトロ研究1」のE-ラーニングにとてもわかりやすくその混乱の理由を説明されていましたので紹介します。
口羽文先生の講義では、定義は下記のように2つあるとのことです。
定義1: 曝露とイベント発生の記録の時間的順序
- 前向き: 曝露 → イベント
- 後ろ向き: イベント → 曝露
定義2: 研究開始時点とデータが発生する期間の時間的順序
- 前向き: これから発生するイベントと収集する
- 後ろ向き: 既存資料を用いた研究
カルテの記録を基にしたいわゆる‘レトロな研究’は定義1では前向き研究,定義2では後ろ向き研究になる、とのことです。
私が考える定義は、口羽文先生の「定義1」でした。科学用語に2種類の定義があるのは、混乱を招くだけですので、これは早く整理すべきですね。
私は、定義1にすべきと考えています。定義1では、観察研究においてコホート研究は前向き研究、症例対照研究は後ろ向き研究を示しており、既存資料を用いたコホート研究は「既存資料を用いたコホート研究」と称すればわかりやすいと思います。
なお、介入試験で、「前向き介入試験」と記されていることがありますが、「介入試験」はすべて「前向き研究」ですので、わざわざ「前向き」と書く必要はないと思っています。
健康保険の適応、適用
日本においては、皆保険制度により国民全員が健康保険に入っています。世界に誇ることのできる素晴らしい制度ですが、いろいろなほころびや矛盾が出てきており、制度疲労が出ている感じですね。また、少子高齢化により予算も厳しくなってきていますので、このままの体制でいつまで維持できるのかとても心配です。
ところで、保険の「適応」と「適用」は、紛らわしい単語ですね。厚労省のホームページをみても「適応外使用の保険適用について」などと書かれており、混乱しますね。
辞書には下記のように書かれています。
【適用】(規制に)あてはめる
【適応】あてはまる
薬の「適応外使用」は、「効能にあてはまらない使用」なのでここは「適応」と書いて、保険収載されれば規制にあてはめるので「保険適用」となるのですね。
試験登録
介入試験では試験を登録することが義務づけられています。これは、薬の評価などで想定外に悪い結果になった場合、メーカーからの圧力で結果が公表されないことがあってはならないので、試験の開始前に実施する試験を登録し、試験の結果まで公表することが義務となっています。
その理由だけでなく、良い結果が出たときのみ論文化され、期待通りの結果が出なかったときには論文化されないことが多い(出版バイアス)ため、どれだけの臨床試験が行われ、期待通りの結果にならなかった試験があったかも公表すべきとの考えからも登録が必要と考えられています。たしかに、有意差のある結果の方が良い雑誌に掲載されやすいですが、差が出なかった臨床試験も、重要な人類の財産ですので、情報を共有することは大切ですね。動物実験などとは異なり、臨床試験は追試が極めて困難ですので、臨床試験はしっかり登録、公表すべきと思います。臨床研究法による特定臨床研究では、jRCTで登録、公開することが義務づけられています。医学系倫理指針による臨床試験はUMINに試験登録をすることが多かったですが、今後はjRCTに登録をまとめる方向で進んでいるようです。観察研究は、登録義務はありませんが、論文投稿の時には臨床試験の登録番号を求められることも多く、最近は観察研究も試験登録することが一般的になってきましたね。
IRBとCRB
臨床研究をする時に、避けて通ることのできないのが倫理審査委員会(施設により「研究倫理審査委員会」、「医の倫理審査委員会」、「研究審査委員会」などいろいろな名称があります)の審査です。倫理審査委員会はIRB(Institutional Review Board;施設内審査委員会)と略されることが多いですね。
それとよく似た組織として、臨床研究法に基づくCRB(Certified Review Board;認定臨床研究審査委員会)があります。この組織は、臨床研究法による特定臨床研究を審査する組織です。臨床研究法において、多施設における特定臨床研究の審査は、1つのCRBで一括審査することが定められています。そのため、CRBの「C」をCentral(中央)と勘違いしている先生もおられますがCRBの「C」はCertified(認定)ですので注意しましょう。
2021年6月30日から、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が一本化されて「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(今は「新指針」とか「生命・医学系指針」などと略されていますが、どのような略称になるのか、まだ、決まっていないようですね)が施行されました。この新指針おいて、多施設研究はなるべく一括審査をするように求められてますが、その審査をするのは臨床研究法におけるCRBではなくIRBです。従って、新指針における研究を一括審査する倫理審査委員会は「CRB」ではなく「Central IRB」なので、気をつけましょう。
これからも、ボチボチとブログをアップしていこうと思いますが、定期的にアップした方が読みやすいと思いますので、なるべく、毎週月曜にアップするように致します。ブログについての感想やコメントもお願いします。もしも、間違いなどがありましたら遠慮なくコメントください。
第1度近親と第1度親等
遺伝性疾患でよく使われる単語に「近親(relative)」があります。第1度近親は、自分の遺伝子の1/2を持っている血縁者で、両親と子供、兄弟姉妹になります。祖父、祖母、孫は自分の遺伝子の1/4を持っているので、第2度近親になります。
よく似た言葉に「親等」があります。これは、主に法律で用いられる用語で、自分からの遠さを示します。第1度親等は両親と子供、第2度親等は兄弟姉妹、祖父、祖母、孫になります。兄弟姉妹は、自分→両親→兄弟姉妹になるので、距離が両親より2倍になります。
兄弟姉妹は、第1度近親であり、第2度親等です。ややこしいですね。
PS:以前に「親近」と記しておりましたが、「親等」の間違いでした。すみません。ご指摘頂き、ありがとうございます。また、間違いがあれば、是非ともご指摘ください。
メールのお作法
メールを送るとき、私はいつもメールの最上段は下記のような書き方をしています。
「大阪一郎先生へ: 石川秀樹より(CC:東京二郎先生)」
メールをみて、最上段にこれが書かれていたら、誰から来たのかすぐに分かるので、良いと思って始めたのですが、残念ながら誰も真似をしてくれないですね。
私も、メールに「拝啓・敬具」や「前略・草々」などはさすがに書かないですが、やはり最初に「いつも大変お世話になっております。」や「ご無沙汰しております。」「メール、ありがとうございます。」などを書いてしまいます。メールは用件だけを書けば良いと言われることも多いですが、短い文章の中でも、書いている人の気持ちがにじみ出ているように感じることがありますので、丁寧に文章は書きたいです。
メールは事務連絡や書類提出、日程調整などにはとても便利ですが、微妙な問題や苦言については、こちらの気持ちが上手く伝わらないことが多いので、これまではすぐに電話をするようにしていました。しかし、今はすぐにウエブ会議ができるので、微妙な話はウエブ会議に切り替えることが増えましたね。
御侍史と御机下
医師の世界では、手紙やメールで「御侍史」、「御机下」をつける人が多いですね。これは、相手を敬う気持ちを表すために記していると思いますが、現在も広く用いられているのは医師の世界だけのようです。近い将来、廃れていくのでしょうね。
ホームページについて
ホームページのトップ画面の灯台は、石垣島の御神崎の灯台です。5年ほど前に福大の八尾建史先生とダイビングに行ったときに八尾先生が撮った写真を使わせて頂きました。ホームページ内の海の写真はすべて八尾先生の作品です。ありがとうございます!
科学の荒波を航海する研究者の皆さんをサポートする灯台のような存在になることができればとの思いから、この写真を選びました。
会社紹介に私の写真を入れていますが、15年前(46歳)の時の写真です(古い写真ですみません)。現在の写真もつけておきますね。
謝辞と共同研究者
学会の発表の時、最後のスライドで共同研究者を「謝辞」で紹介する発表を時々見かけますが、学会の場で共同研究者に謝辞を述べるのは、違和感があります。共同研究者は、いわば身内ですので、その身内を公の場でお礼を述べるのは、ふさわしくないです。共同研究者ではない効果安全性評価委員や監査委員、そして試験に参加してくれた患者さん達に謝辞をするのは良いですね。