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十二指腸潰瘍の人は胃癌になりにくい

20年以上前、まだ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)が発見されていなかった頃、十二指腸潰瘍と胃潰瘍は、攻撃因子である胃酸と、防御因子である粘液や血流などのバランスが乱れて発症すると考えられていました。また、胃癌の原因はほとんどわかっていませんでした。

ただ、十二指腸潰瘍の人は胃癌になりにくいことは、かなり以前から知られていて、1990年代にはトップジャーナルのN Engl J Medでも2つの論文(325: 1127-31, 1991、335: 242-9, 1996)で報告され、確実な知見とされていました。

その後、十二指腸潰瘍の原因としてピロリ菌が発見され、多くの研究によりピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因であることが明らかにされました。しばらくして、胃癌もピロリ菌が原因ではないかという報告が出てきたのですが、前述の「十二指腸潰瘍患者は胃癌になりにくい」という知見と矛盾するため、研究者達は大変混乱しました。

皆さんは、十二指腸潰瘍も胃潰瘍もピロリ菌が原因であることは知っていますね。では、前述の矛盾はどのように説明できると思いますか?

十二指腸潰瘍は若い人がなりやすく、胃癌は高齢者がなりやすいので、年齢で補正したらその矛盾は消えるのではないかとも思われましたが、年齢で補正してもやはりその傾向は残りました。

十二指腸潰瘍と胃癌の患者さんのピロリ菌の感染時期が違うのではないか、という仮説もだされました。幼少時期に感染し長期間炎症が起こると萎縮性胃炎が強く起こり胃酸が出にくく、十二指腸潰瘍にはならず、胃癌になるのではないか、という仮説です。ただ、発展途上国では幼少時期に感染する人が多いのですが、十二指腸潰瘍も多く、仮説にあいません。ピロリ菌の持続感染は幼少時期に感染することがほとんどですが、青年期にピロリ菌に感染して持続感染した場合には、十二指腸潰瘍になり、胃癌にはなりにくいかもしれません。

食事や飲酒、喫煙習慣などの違いにより十二指腸潰瘍になったり、胃癌になったりするのではないか、と考える研究者もいました。胃癌の患者さんの方が、喫煙や高濃度の塩の摂取が多い、新鮮野菜や果物の摂取が少ない傾向はありましたが、これだけでは説明することはできませんでした。

そこで考えられたのが、感染したピロリ菌の種類が違うのではないかという仮説です。大分大学の山岡吉生先生方が発見されたDupAを産生するピロリ菌は十二指腸潰瘍に多いようです。まだ、DupAだけでは完全には説明できないですが、かなり重要な働きをしているようです。

ピロリ菌が発見された当時の研究者や臨床医は、胃癌が感染症とはとても信じることができず、多くの議論がありました。そのときに、胃癌の原因はピロリ菌でないという根拠として、十二指腸潰瘍との関係が示されることがありました。過去の知見に縛られず、柔軟な頭でいろいろな可能性を考えることが重要ですね。

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