疫学の弱点
前回のブログに記しました「3た論法」や「開業医バイアス」などを防いで真実の知見を得る方法を示す科学が「疫学」ですが、疫学も万能ではありません。疫学にも大きな弱点があります。疫学は、人集団を用いて、病気の原因や予防法、治療法を見いだす科学ですが、それらの知見を把握するためには、長時間かかることが多いです。細胞培養の実験や、動物実験などでは、結果は数時間、数日、数ヶ月で明らかになりますが、人集団で病気の発症や薬の効果をみるためには、数年、数十年の期間が必要になることがほとんどです。
代表的な疫学研究であるコホート研究では、病気の発症までに少なくとも十数年かかるため、今、コホート研究で得られた知見は、十数年以上前の状況における知見になります。急激に科学や医学が進歩している現在において、十数年前の治療法や検査法の知見ではまったく役にたたないこともあります。
十数年前には、心カテの技術や、内視鏡治療の技術も進歩しておらず、免疫チェックポイント阻害剤なども発見されていませんでしたので、その時期の治療成績で、現在のそれらを活用した治療方針を決めることはできません。また、食生活や喫煙状況なども変化していますので、過去の知見を現在の生活に当てはめることもできないかもしれません。
ピロリ菌が発見される前に大量に集積された胃癌の疫学データなどは、ピロリ菌の発見により、劇的に疫学データの解釈は変化しました。
科学は一つ一つの知見の積み重ねであるとともに、大きなブレイクスルーによっても進歩するものですので、過去の知識に固執せず、柔軟な頭で、得られたデータを解釈することが必要ですね。